第四百六十三話
「おー。何かそろってるみたいだぜ。アステル」
「そうだな。オウガ。流石、沙羅さんがかかわっていると移動速度が尋常じゃない」
入って来たのは二人の青年だった。
アステル、と呼ばれた男と、オウガ、と呼ばれた男の二人。
アステルの方は、短く切りそろえた銀髪に、右が緑、左が金のオッドアイが特徴のイケメンである。
徹底的にこだわりぬいたであろう整った容姿に加えて、百八十を超える高身長。
引き締まった体にまとっているのは、グレーのスーツだ。
落ち着いた雰囲気の青年に似合ったものである。
オウガの方は、逆立った茶髪に紅色のメッシュを入れている。
やんちゃそうな掘りの深い顔立ちで、なんともパーソナルスペースが狭そうな印象だ。
ロックミュージシャンのような黒いロングコートを羽織っており、背中には、ごつごつとした岩のような材質で、ドラゴンの顔をモチーフにしたような大剣を背負っている。
普段から二人で行動しているような『雰囲気の近さ』もそうだが……。
「……?」
秀星はとりあえず、『何かが違う』と思った。
「君が朝森秀星か」
アステルと呼ばれた青年が秀星の方を見る。
そして、アステルの金色の左目が一瞬だけ光った。
秀星は『鑑定スキルに類するもの』だと判断して、その『鑑定スキル』の解析と、魔法的に自分の情報のプロテクトの質の変更とそれそのものの向上を行った。
『情報戦』を制したのは……秀星。
(……あーでも、どうでもいい情報のほとんどが抜かれたな)
秀星はそう思った。
そしてアステルの方はどうなのかと言うと、一瞬だけ驚いたような顔をしていた。
「……正直、あの一瞬でここまで対策されるとは思っていなかった」
「いや、どうでもいい情報のほとんどが抜かれたし、そこから推察できる部分は多いだろうし、まあ試合には負けてるよ」
「……そうか」
アステルは近くのテーブルに座った。
すると、そのテーブルの上に凛名がコーヒーをおいた。
(……ブラックなんだ)
秀星はそのコーヒーを見てそう思った。
その時、ドアが開いた。
「ふああ……おはよー。ん?もう結構そろってるんだね。というか、後沙羅さんと育美さんくらいじゃない?」
少し大きめの袋を担いでいる少年だ。
少年がどさりと袋をカウンターの上に置く。
黒髪黒目で、平均より少し高い程度の身長の少年だ。
鍛えている様子はないし、魔法の効果を上げるような道具はなく、戦士とも魔法使いともいえない男である。
ただ、飄々とした雰囲気で、糸目であり、表情はとてもニコニコしている。
「草太さん。確かに受け取りました」
「うん」
糸目でニコニコしたまま凛名と話している少年。
「あ、自己紹介がまだだったね。僕は林道草太。このチームの薬草採取担当さ!」
胸を張ってそういう草太。
おそらく、秀星とそう変わらない年齢の様子の少年だが……。
「薬草採取……ねぇ」
秀星はそういった。
「お、さすが世界一位。僕のことくらいなら見ただけで分かっちゃう?」
「……まあな」
林道草太。
この少年は……限定的ではあるが、『秀星の切り札』と同じものを、秀星よりも使いこなせる男だ。
アステルの鑑定や、オウガが秘めているエネルギーなど、いろいろ考えさせられる要素はある。
だが、この草太と言う少年の特異性も、秀星に取っては無視できないものだった。
「ウフフ♪どこか『一定以上の実力があるかないか』でかなり雰囲気が変わってきている見たいですねぇ」
そう言いながら入って来たのは、秀星の母親である沙羅と、秀星の姉である育美だ。
二人は相変わらずだが……。
「あ、産まれたんですね!おめでとうございます!」
雫が言う通り、育美は赤ん坊を抱いていた。
「そうよ、名前は晶。かわいいでしょ」
育美はそう言いながら笑顔で明を抱きしめている。
それを見ながら、剣の精鋭メンバーは『ああ、母親になったんだなぁ』と何となく感じていた。
(男の子だな。ただ、この頃からメッシュが……俺もこんな感じだったのかなぁ)
秀星はそんなことを考えた。
「……う?」
来夏の頭の上にいた沙耶が反応した。
そして、来夏の体をするすると降りたあと、すごいスピードでハイハイして育美に接近。
「!?」
育美も驚愕。
が、晶を抱いたまましゃがんでいる。
沙耶と晶の目が合った。
「うー」
「あー」
手を伸ばしあっている。
育美はどうすればいいのかよくわからなくなったが、ここには危機感知能力が高い人間がそろっているので、問題はないだろうと考えた。
というより、『沙耶と晶』という組み合わせはかなり気になるものなのだろう。
全員の視線が集中している。
育美は晶をハイハイしやすいようにおろした。
すると、沙耶と晶がすぐにふれあって……。
「うっ!」
沙耶が晶の服を掴んで、そのまま投げようとした。
「まっ!」
晶はそれに対して、しっかり踏ん張った後、沙耶の足に自分の足を引っかけた後、そのまま逆に投げ返した。
沙耶はしっかり受け身をとっている。
そして、晶は胸を張った。
その場の心境としては……、
『お見事!……いや、何やってんねん』という感じである。
「フフフ、さて、赤ん坊同士の自己紹介も終わったことだし、さっそくいろいろ始めようぜ」
だが、そんな空気を読まずにいろいろ言えるのが高志の特徴。
混沌とした空気だったが、これによってどうにかなる気がしたいのだった。




