第四百五十八話
「というわけで、高志のチームメイトのところに皆で行くことになったぜ!」
かくかくしかじか。という奴を御存知だろうか。
小説などを書く場合には便利なもので、代名詞としてはよくみられるものだ。
人間、芸でもないのに同じことを何回も聞くのは苦痛であり、適度に代名詞を使って説明することは重要だ。
重要なのだが……。
「というわけでって……キャンピングカーの中に俺しかいないのにそんなこと言ってどうするんだ?」
秀星はそうつぶやいた。
先ほどのセリフは、来夏がキャンピングカーに突撃しながら言ったことである。
なにか事前に告知があったわけでもなく、ただ単にキャンピングカーに突撃してきて、そして口から出た第一声なのだ。
何とも信じられない話だが、ここに他のメンバーがいたとしても『ああ、また頭が沸いたんだな』と思うだけだ。
最近、小学六年生の美咲もポチを胸に抱きながら思うそうなので、もはや手遅れだろう。
「だって……楽しそうだろ!」
「来夏にとっては楽しいかもしれんが、俺にとっては疲れるんです……」
ちなみに、先ほど『ああ、また頭が沸いたんだな』という何とも人のことを馬鹿にしたことを記したわけだが、そんなことを考えている間に、秀星だって『また面倒なことを言いだしたぞこのゴリラ』とか思っているのだ。なんだかゴリラよりも筋力がありそうな気がするし……というか気のせいではないと断言できるが、とかいろいろ考えているうちに『もうしーらね』と丸投げ思考に入るのである。
「いいじゃねえか。最近、家族そろって会うことないんだろ?」
「ああ。しかも姉とは全くあってない」
「……秀星って思ってたより冷めてるよな」
「まあ、元々姉と妹がいることを知らなかったっていうのもあるし、『何か会わなくても問題ないんじゃね?』って思う部分が多いんだよな。母さんからはメールが結構来てるから返信してるけど」
「へえ、なるほどな。メアド教えてくんね?オレもメールする」
「圏外だから通じないぞ」
「じゃあなんで秀星はできるんだよ!?」
「母さんのスマホは母さんがフル改造したもので、俺のスマホから発信される電波そのものを受信するんだよ」
「転移とか転送とか、そう言った魔法が得意な奴って極めると電波まで転送できんの!?」
「自動受信くらいはまあ普通だ」
「なんていうか……ギャグさ加減はオレに匹敵するんじゃねえの?」
「ギャグ補正と技術を一緒にするんじゃない」
そんなことをしてはいけない。
だってもしそうなったら、秀星だって存在がギャグになってしまうのだ。
秀星は『手遅れ』という単語が思い浮かんだので、とりあえずそれは隅の方においておくことにした。
「で、なにか目的でもあるのか?」
「剣の精鋭メンバーの全体的なレベルアップが必要だと思ったからだ。今のところ、オレたちは秀星の知識や常識を使って強くなってるだろ?それは悪くねえけど、それだと、秀星が持っている常識になにか致命的なものが見つかったら、それだけで全員が倒れるからな。高志のところに行けば、秀星くらい強いやつがいる可能性もあるだろ?話を聞くだけでもいいことはたくさんあると思う」
思ったより考えているようだ。
確かに来夏の言うとおりである。
例えるなら、スポーツの世界で、敵チームのコーチが軽視している部分を知ることができれば、軽視している部分をつく特訓を積むことで、本番で突破できる可能性が上がる。ということだろう。
『教える』という言葉が持っている負の側面のような話だが、そもそも剣の精鋭は『魔戦士チーム』なので、多数の意見を聞くことは悪いことではない。
「それに、高志の仲間なら、悪いやつはいなさそうだしな」
「……だろうなぁ」
秀星はなんとなく、その来夏の言葉にうなずいた。
基本的に組織というのは、『目的を遂行できる能力』を持っている集団の中から人を選ぶ場合、最もその能力が高い人間を選ぶ必要はない。
もちろん重要なのだが、しっかりと『仲間』として行動していけるのか。ということだ。
この選出方法は『剣の精鋭』にも適用されていることであり、人事権を握っているのは来夏であり、来夏が良いと言えばすんなり入れるが、単に仲がいいだけだと採用されない場合もある。
ちなみに、その判断基準はすべて明文化されておらず、来夏の頭の中にしか存在しない。
言い方を変えると、頻繁に変わる。ということだ。
高志も観察力は高いので、雰囲気が良くなると思う人間がいれば採用されるだろう。
「というわけで!高志のところに行こうってわけだ!」
「どれくらいの期間行くつもりなんだ?」
「長居してもしゃあねえし、土日をつかって一泊二日だな」
「そうか」
そういったノリで、剣の精鋭メンバーで合宿をすることになった。




