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第四百五十六話

「ふう……」


 秀星は自宅のリビングで、テーブルに上半身を預けてぐったりしていた。

 最近、『とある本』を書いているので、その執筆の続きをしながらではあるが。


「最近、なんかやたらと情報量が多くなったなぁ……」


 二年に進級してからというもの、様々なことが次々と発生している。

 魔法社会が表になり、一般にも魔法が出ていくようになった。


 しかも、裏で大規模な市場が既に存在するような概念のため、表に出たそれらは圧倒的な『実用性』を発揮する。

 人間と言うのは道具を使う場合、『製作過程』のことなど気にしない。

 学問的に考えるならば、『0を1』に、『無限を有限』にする過程と言うものが重要視されるだろうが、既に『1』が完成、『有限への制御』が完了してしまっている以上、人はそんなものは気にしない。

 スマホを使っているからと言ってスマホの構造まで興味があるかと言われれば、九割以上の人は『無い』と答えるだろう。

 現代に生きる若者たちで、スマホが壊れたままで生活できる人などほとんどいないはずだ。

 だが、スマホの構造……特に、『正常に機能するためにはどんな知識があればいいか』をしっているだけでも十分大きいはずだ。


 魔法でも同じである。

 しかも、スマホが生み出すそれよりもずっと影響範囲が広いのだからなおさらだ。


「セフィア。カフェオレ」

「はい」


 秀星が呼ぶと、セフィアがカフェオレを秀星のそばにおいた。

 ちなみに即座におかれたわけだが、カフェオレの状態は完璧である。

 一口飲むと、甘い香りが口の中に広がった。


「セフィアはどう思う?最近、出てくる情報が多くて俺はちょっと大変なんだけど」

「私としては、ギャグ担当が増えていますので、苦労人枠の人が増えてほしいですね」

「……」

「ただ、アーク・テーゼ……本来、高志様が活動されているエリアにいるような犯罪組織が出てくるようになりました。今の魔法犯罪の大きな部分は、秀星様がいる沖野宮高校に誘導する形ですが、アーク・テーゼの敗北により、沖野宮高校ではなく他の場所を狙いだすものも現れるでしょう」

「……あー、今回の勝利にはそう言うデメリットもあるわけか」

「とはいえ、『待ち』から『攻め』に変わるだけです。転移魔法がほぼノーコストの秀星様ですから、そのあたりはあまり問題はないでしょう」

「なるほどな。ていうか、沖野宮高校ってこれからは狙われなくなるのか」

「可能性としては高いでしょう」

「最大の要因は?」


 セフィアは少し考えた後、言った。


「沖野宮高校が『大きなテロ組織』から狙われなくなる最大の理由は、『無能』が少ないことです」

「贅沢な悩みだな」

「はい。そもそも、犯罪組織……特にテロ組織と言うのは、リソースを割き、コストをかけて、襲撃現場からそれ以上のものを得ることで成り立っています。要するに、襲撃を行う時点で、『失敗』は『赤字』なわけです。沖野宮高校には確かに、テロ組織が喉から手が出るほど欲しいと思うものがたくさんありますが、だからといって、『失敗』しては無駄ですからね」

「……ディーラーがイカサマしたらカジノは儲かるけど、そこから客が来なくなるのと同じか?」

「例えとして離れているわけではありませんね。いずれにせよ、『襲撃』も一つの『挑戦』です。『リターンのない挑戦』に意味を見出すものはそもそもいませんし、そもそも秀星様は詐欺師でしょう」

「違いない」


 秀星は嘘は基本付かない。

 が、『ばれないように勘違い』させることは膨大に言いまくるしやりまくる。

 確かに『嘘つき』と言うよりは『詐欺師』であり、イカサマばっかりしているといっていいだろう。


「もちろん、中途半端な組織で、しかも野心があるとなれば仕掛けて来るでしょう。一攫千金を狙って襲撃し、成功すればそのリターンは計り知れません」

「……ていうかさ、ちょっと沖野宮高校のホームページ見てみたら、『どれほど凄い物』があるのかって言う情報がすごく乗ってるんだよな。しかも範囲が広くて深いし、紹介動画まである。それに反してセキュリティレベルの公開が絶望的だぞ」

「『狙って来てください』って言ってるようなものです。アーク・テーゼの活動範囲はそもそも日本国内ではなかったので知名度は低く、その勢力に対する知識が浅いとなれば、他の犯罪組織が攻めてくる可能性は十分に考えられます」

「でも、弱いんだよなぶっちゃけ」

「『才能』と『経験』と『努力』と『環境』。確かに必要と言えば必要ですが、彼らには『常識』が足りませんからね」

「惜しいんだよなぁ。ま、売られた喧嘩は買うし、火の粉が振りかかって来るなら、火元を叩き潰すけどな」


 暴力的な話だが、そうでもしないと止まらない。


「圧倒的な力があっても、どんな感じに証明すればいいのやら、だれか見せしめになってくれないかな」

「そんな酔狂な人間はいないと思いますよ」

「だよね」


 秀星はぐったりした。

 秀星はそもそも、一対一で組み合う『格ゲー』よりも、圧倒的な力で多数の雑魚を蹂躙する『無双ゲー』を好むタイプである。

 要するに……面倒なのは嫌いなのだ。

 最近は一対一が多くて萎えているのである。


 これもまた、ぜいたくな悩みだ。

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