第四百五十話
アーク・テーゼの面々は確かに強い。
秀星や基樹など、『ただ理不尽な何か』と言っていい奴が相手にしない限り、勝てないほどだ。
しかし、二人だけで一つの戦場でどうにかしようというのは無理な話である。
広い草原でただ敵を蹂躙するならともかく、まだ避難も十分に終わっていないようなところで暴れるのはなかなかできない。
ので、ちゃんと倒せる奴が出て来るのだ。
「よーし、頑張って襲撃者を倒すぞ~。ウップ」
「お~。まずはあそこからだ~。オエッ」
ベロンベロンに酔っぱらっている来夏と高志である。
何をどう考えても強く見えない感じに仕上がったふたりだが、本当に今までずっと飲んでいたようだ。
そして、これは喫茶店『サターナ』の店主で、アトム率いるドリーミィ・フロント所属の茅宮道也(雫の兄貴)の言葉なのだが……。
『なんでアイツら、自分よりも体積が大きい樽でイッキするんだ……しかも何度も……』とのことなので、言葉通りに飲みまくっていたようだ。
本当にマジで何をしているのだろうか。
ちなみに酔っぱらった状態でどうにかなるのかというと……。
「ウプッ。ちょっと準備運動」
高志はフラ~っとどこかに歩いていった。
そして、まだ残っているアーク・テーゼのアジトのビル三つを、地面からもぎ取って縦に重ねて持ってくる。
「みろ来夏!さっきトイレで十秒で考えた宴会芸。ビルお手玉だ!」
ビルはお手玉をするためのものではありません。
と言うツッコミに関してはもう今更なのでおいておくにしても、『もうこいつ嫌』と思ってしまうような発言だ。
「おらああああ!」
そして実際にお手玉をし始める高志。
ビルが舞う。容赦なく舞う。
どうしてこうなった。
「お~。すげーな!」
来夏が拍手をしながらそんなことを言った。
よくもまあ、こんな阿呆なことをしているのにのんきに拍手をしていられるものだ。
「よし、オレもやる」
「わかった。ほれ」
高志が投げ渡すように落ちてきたビルを来夏に向かって放った。
来夏はそれをうまいことあげて、そのまま三つのビルでお手玉を始める。
「おお、楽しいなこれ!」
本当か?本当に楽しいのか?ビルシャカシャカはすぐに飽きて酒盛りをはじめただろお前。
「だろ?大きなものでお手玉する。こういうのは大人にしかできないからな。オエッ」
大きすぎるわ。
「あー……ちょっと学校を襲撃してるやつをとらえてくる~」
「いってらっさーい」
高志は学校に向かって歩きだした。
広場で大きな音が聞こえるな~。と思ったので、高志はそこを目指してみることに。
そこでは、剣の精鋭メンバーの集団と、アーク・テーゼのまとまった集団がぶつかり合う戦場となっていた。
「んん~。よーし、ここからは俺も戦うぞ~」
試しに、その襲撃犯の真後ろに一瞬で移動して、頭に拳骨を叩きこむ。
甲冑型の神器だったので頭にもそれらしいメットを被っているのだが、高志はそんなことはお構いなしに拳骨を叩きこんだ。
メットが容赦なく粉砕される。
「……え?」
全員が驚いた。
で、拳骨をくらった男も、その圧倒的な威力でふらついたあと、地面にぶっ倒れた。
相手していたアレシアもびっくり。
「よーし、まずは一人~……ウプッ。オエエエエエエエ」
遂にゲロった高志。
そしてそのゲロは、容赦なく先ほど気絶した男の顔面に降り注いだ。
「……」
信じられないような目でその様子を見守ったその戦場にいるものたち。
「お父さん。完全に酔っぱらってますね~」
実の娘である美奈はまだ余裕があった。
なんだか、この光景を見てまだ余裕があることに対して異常さを禁じ得ないが、彼女は高志の娘にして秀星の妹である。まあまともなわけがない。
「よーし、次は……お前だ~」
襲撃犯に向かって再度突撃する高志。
若干、アーク・テーゼ側の有利に進んでいたこの戦場。
酔っぱらった世界一位の父親の登場により、阿鼻叫喚とゲロの戦場になった。
「お父さんって、酔っぱらっている時の記憶って大体ないんですよね~」
「あ、それ、来夏も同じね」
美奈のほんわかした言い分に対して、呆れながらつぶやく優奈。
タチが悪すぎる。本当に。




