第四百四十九話
「……まあ、少しはやるようだが。もうちょっと理不尽じゃねえとなぁ……」
基樹は膨大な魔力をあふれさせながら、アーク・テーゼの構成員の剣を受け止めて、剣ごと体を地面にたたきつけて気絶させる。
ちなみにこの構成員の剣も、下位神のものではあるが神器である。
「思ったより神器を揃えてきてやがる……神器ダンジョンに挑む場合のコツとかあるのか?」
基樹はそんなことを考えながら、敵を叩き潰す。
容赦など一切ないが、元々これは戦場である。
そうしたところで咎めるものはいない。
「ていうか、ほんっと日本って神器が多いな。秀星が言うには、『八百万の神』を無関係ではないが、考え方だけが重要であって、別に彼らが神器を作っているわけではない。みたいなことを言ってたが……」
魔力を固めて弾丸を作って、敵の足を抉る基樹。
秀星からは『まあ基本的に殺さない方向で片づけるようにな』と言われているが、死なない程度に痛めつけることに関しては何も言われていない。
「神器を構成しているのって、確か『神力』……別名『プライオリウム』だったか?まあ秀星がそう呼んでるだけだが……強引に訳すると『優先元素』か?名前からして面倒なのが見て取れるな」
基樹は後ろから斬りかかって来る剣を右手の人差し指と中指で止めると、そのまま右足を振り上げて襲撃者をぶっとばした。
「なぜここまで神器を揃えられるんだか……確か神器って手に入れるの苦労するんじゃなかったのかよ。しかも、後天的な部分ならまだしも、先天的な制限もあって、『ダンジョンをクリアしたからと言って神器を使えるわけじゃない』って秀星言ってたのに……」
若干イラッとしてきたのか、飛んできた弾丸を『フッ!』と息をぶつけてはじき返す。
「まあ、俺はグリモアでも神器なんて知らなかったしなぁ。そもそも、グリモアにあった神器ダンジョンと、地球にある神器ダンジョンがどう違うのかわからんし」
極度のパワーインフレが進んでいるのは間違いない。
基樹も、高志達と接してきて、その後で剣の精鋭に入ったが、その過程で、『大体何でも出来るけど、やろうという発想がないだけ』と言う状態が多すぎる。
秀星はその典型例だろう。
一応、バランスだとかそう言った部分を考えている節はあるが、秀星の主観でほぼ決まっている。
正直、基準と言うものを一番決めてはいけない人間だと思うのだが、そこのところどうなのだろう。
「……まあいいや。大体どうにかなるんだろうし」
基樹は考えるのをやめた。
どうせ、答えは出ない。
そして彼らは、答えが出ずとも許容する。
後回しにするのではなく、そもそも忘れる。
「……今更誰が攻めてこようと、結果は変わらんか。最強が決まってるって言うのは、楽でいいねえ……」
グリモアで何を経験してきたのか。
彼にも彼の人生があり、そこで得た教訓はある。
世界一位の座に秀星が就いている。という点。
基樹にとっては、腹が立つものではなく、むしろ落ち着くための材料のようだ。




