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第四百四十六話

「ふああ……なんか、外ではいろいろ暴れてるみたいだな」


 バトルロイヤルは続いている。

 秀星と基樹も、現在は戦っているところだ。

 そして襲撃があったことを知りながらも、彼らは戦っている。


「ああ、俺もちょっと聞こえてる。今のところ、切羽詰まった様子はねえけどな」

「むしろ、父さんと来夏が自由すぎて緊張感ゼロだもんな……」


 頭を抱えたくなる話だが、本人たちは至って平常運転だ。

 なんでこうなったのかと思う部分はあるが、答えはどうせ出ないので議論しても意味はない。


「で、思うんだが……」

「なんだ?基樹」

「すでに残ってるのって俺らくらいじゃね?」

「……だろうなぁ。いても二人だ」


 すでに、ステージの殆どは更地に変わっていた。

 遠くのほうに神器の気配があるので、宗一郎と聡子が戦っているんだろうな。と思うが、それだけである。


「さて、どうせ決着つかないだろ。どうする?」

「そうなんだよなぁ」


 二人は迷った。

 お互いに圧倒的な危機感知と反応速度と出力を持っている。

 それは周知の事実に近いが、全力を出すとどうなるのかというと『秀星VS宗一郎』の二の舞になるだけなのだ。

 確実に空間そのものがぶっ壊れるのである。

 もちろん、壊れた場合は全員が強制退出するだけなので事故は起きないのだが、消化不良で終わるだろう。

 基樹のスペックが宗一郎よりも高いのでなおさらである。

 そして、空間を壊さないように戦おうとすると、逆に攻撃が通らない。


 そうすると何が起こるのかというと、決着がつかない。


「まあ、最終的にはコイントスで決めるか」

「そうだな」

「あ、基樹、都合の悪い出目になりそうだったときに事故っぽく地面ごと破壊とか無しな」

「なんでそういうことを即座に思いつくんだ?」

「父さんの常套手段だからだ」


 クソ親父である。


「……ていうか、外で襲撃があって記者もカメラマンも隠れてんだろ?だったら、あまり長いこと戦っても仕方ねえな」

「その解決手段としてのコイントスだ。が、聡子と宗一郎が決着つけてないってことは、まだそれ相応に残っておく意味があるんだろ。適当にしゃべろっか。どうせ誰も見てないし」

「だな」

「セフィア!お菓子持ってきて!」

「かしこまりました」


 セフィアは一瞬で、小さめの丸テーブルと二つの椅子を出して、テーブルの上にお茶とお菓子をセッティングした。


「早っ!」

「メイドですから」

「その言葉便利だなぁ……」


 基樹すら苦笑するレベルだったが、まあそれはそれとして……。

 二人は椅子に座ってお菓子を食べ始めた。


「……秀星、なんか面白い話してくれ」

「なんで俺?」

「俺が話題ないからだよ」

「さようか。っていってもなぁ……最近分かったことでいいか?」

「いいぞ」

「『炎属性無効』っていうスキルあるだろ」

「あるな。確か、炎属性が体に接触するときに『膜』を作って防ぐんだよな」

「あれって融点と沸点あるぞ」

「……はっ!?」


 基樹は驚いた。


「炎属性無効なのに、融点と沸点があるのか」

「ある。まあ、当然その融点は高いわけなんだが、きちんと溶ける。というか、『魔力』そのものに融点があるんだから当然だ」

「あー。確かにな。魔石を燃やしたらどうなるんだろうなって実験したことあるわ」

「きちんと燃えただろ」

「ああ。単なる『気体の性質の魔力』になったが、確かになったわ……あれ?液体にはならないのか?」

「まあ、そこはおおむね二酸化炭素と同じだ。気圧が足りないと液体にならん」

「気圧っていうか……圧力が必要なのか?」

「水だって宇宙だと液体にならないだろ?それと同じ」

「なーるほど」


 お菓子を食べながらうなずく基樹。


「話を戻すけど、魔力にも融点と沸点はあるわけだから、『炎属性無効』という魔力で構築される『膜』にも限度が存在するってわけだ。ためしに普通の石に『炎属性無効』を付与して実験してみたらレーザーが貫通して驚いた」

「要するに、『無効(笑)』ってわけか」

「通常の運用上は問題ない数値を出せるっていうだけのパターンはそれなりに多いからな。それに、スキルもいろいろと体に都合のいい部分は受け入れちゃうし……」

「例えば?」

「『水属性無効』持ちでも『溺死』するってことだ」

「……過信は禁物か」

「要するにそういうことだ」


 基樹も納得したようなので、この話は終わり。


「秀星様。聡子様と宗一郎様の戦いが終わりました」

「お、どっちが勝ったの?」

「沙耶様の誤爆で引き分けです」


 何やってんだ来夏の娘。


「……俺たちもコイントスで決めるか」

「そうだな」


 セフィアがコインを出した。

 というか五百円玉である。


「……なあ秀星」

「なんだ?」

「公平だよな」

「安心しろ。あらかじめ指示していない限り公平だからな」

「そっか。じゃあ、俺は裏だ」

「そうか。じゃあ俺は表」


 決めたところで、セフィアがコインをはじいた。

 コインが舞い上がって、セフィアの左手の甲に落ちていく。

 その位置から、基樹は思った、


(あ、裏だな……)


 そう思った時だった。

 コインの表が上になった瞬間、手の甲と右手が動いてバシン!と止まる。


「おい!さっきのは公平じゃねえだろ!」

「だから言ったじゃないか、あらかじめ指示してない限りは公平だって」

「指示してたんかい!」

「当たり前だろ。というか、セフィアに命令するとき、俺別にしゃべる必要ないからな?」

「姑息な手を使いやがって……」


 低次元というか、完全に秀星のほうが悪いまま、会話が続いた。


 そして厳正なる勝負の結果。

 勝者は……でなかった。

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