第四百四十二話
シャカシャカ振られている高層ビル。
そこだけ言うとなんだかあれだが、やっているのが来夏と高志だと言うことを考えると、なんだか『またバカやってるのか』で済みそうな気がしてくるので世の中わからない。
「おっ、結果は二人か」
「ハッハッハ!やっぱオレの方がスキルがある分有利だな!」
「そういや来夏って透視もできるんだったな。負けてたまっかオラアアアア!」
高志によってシャカシャカされる高層ビル。
下手な災害より嫌というより、このふたりは災害そのものだろう。なんだかそんな気がする。
周りに建物はない。持ち上げたあとで開けたところまで移動してきたからだ。
だからといってビルをシャカシャカしていいわけではないのだが……というか普通はできない。
『広場でビルをシャカシャカしてはいけません!』などと言う躾をする親がいたら精神科に連れていくべきだろう。
結果的に、この二人に注意している人間がいない。
「よっしゃ!三人出てきたぜ」
「マジかよ!」
ちなみに、二人が(多分)持っているスキル『ギャグ補正』により、被害者はビルから落ちても死ぬことはない。死ぬことができないと言っても違うというわけではないと思うが、一応はそう表現しておこう。
「しっかし、あれだな」
「ああ、飽きた」
なんて無責任なのだろう。
「どうする?これ」
「海にでも投げ捨てておくか?」
あまりにも軽く言っているので勘違いされる恐れがあるため一応補足するが、『高層ビル』である。
そんじょそこらのビルではないのだ。
だが、スケールが大きい二人にとっては遊び道具なのである。
ビルの中はやばいことになっている。
すべてのものがひっくり返り、バラバラになり、最後には原型がなくなる。
ビルシャカシャカを中断しているとき、何度か窓からひょこっと出された白い旗が振られているのだが、二人は完全に無視している。
というより、そんなもの最初から見ていない。
「でも、せっかく襲撃してきたんだし、警察に送りつけようぜ。それで報酬をもらうんだ!……小遣い制限されてて厳しいんだよ」
「ハッハッハ!それなら、今度オレが奢ってやるよ。飲みに行こうぜ」
「そうだな。そんじゃ、これ警察署まで持っていくぞ!」
「おー!」
そう言いながらビルを持ち上げる二人。
それと、いい忘れていたが、一つ重要なことを言っておこう。
このビル。シャカシャカし始めたときからずっと、『上下が逆』である。
要するに、出入り口が上にあるのだ。
彼らは、突然天井に叩きつけられたと思ったら、ビルごと運ばれて、誰の助けも来ないまま、ビルをシャカシャカされていたのだ。合掌。
「あ、そういや来夏」
「なんだ?」
「ビル自体はまだまだあるみたいだぞ」
「なるほど、そっちもちょっと行ってみようぜ」
悪夢はまだまだ、終わらない。醒めない。
無邪気な理不尽は、次の獲物の場所に向かって、歩いていく。




