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第四百三十七話

 エイミー&雫VS美咲。

 この構図がいいことなのか悪いことなのかは別としよう。

 文明的な兵器を使うエイミーとカースドアイテムを振るう雫。

 いずれも剣の精鋭メンバーとしては美咲にキャリアが及ばないものの、強いメンバーだ。

 とはいえ、小学六年生である美咲も、弱いわけでは決してない。


「さてさて、ポチ。頑張るですよ」

「グルル」


 小さくしていた体を、突如大きくさせるポチ。

 大きな虎のようになって、美咲はそれに乗って槍を構える。


「私、美咲ちゃんが相手なのはやりにくいんだよね」

「正直、私も同じです」


 雫もエイミーも銃を構えているが、それでも、美咲が相手なのは『嫌』だという。

 小学六年生だから相手をしにくい。と言う部分も当然である。

 絵面的にあまりよくないのだ。


 しかし、美咲の場合はそうはならないのだ。

 魔法社会というものは、基本的に『理想』が『現実』になるまでの時間が短い。

 科学も魔法も、何かを行使する際、ある程度『雑』にやってもいいのだが、完成度の高さとかクオリティなどを度外視すると、その『雑さ』を魔法社会は耐えてくれるのだ。


 とはいえ、小学生は一度理性的になると、それ相応にしっかりものを考えている。

 言いかえるなら、『抽象的』なことを考えるのが得意になって来るのは中学生以上なのだ。

 答えのない漠然としたスケールのものを考える。

 こういうのは、考えるのはすごく楽しいのだ。

 中二病というのは、こうしたことを急に考えられるようになった想像力の末になるものであり、社会的には黒歴史でしかないが、生物的に見ればなんの問題もないのである。


「美咲ちゃんは『楽しい』って感情だけで大体のことをやりとおしてくるからなぁ」


 美咲が槍を振りおろしてくるので、盾を出現させてそれを防ぐ雫。

 動物の膂力をまとめて使っている美咲の振りおろしはなかなか強い。

 抽象的な部分を考える力が育っていない年齢である美咲の脳はひどく現実的である。

 現実的な思考のみで敵を圧倒している場合、彼女を支えているのは『常識』だ。

 まあそもそも、小六の女の子は普通、虎に乗って槍を振り回したりしない。


「ムムム。なかなか当たらないです」


 美咲は銃弾を槍で弾きながらそんなことを呟く。

 とてもじゃないが小六とは思えないセンスである。

 だが、このセンスが美咲を支えているし、素直で純粋だ。

 しかも、来夏がチームのリーダーであり、秀星が入ったりして、彼女の中の常識が拡張されている。

 正直な話をすると、こうして二人で戦っている雫とエイミーの方が負ける可能性もある。


 ただし、ここまで強くなりそうなものがそろっている小六はそうそういない。


((来夏って、こういうこと見つけるのがうまいんだろうなぁ))


 雫とエイミーはそう思うのだった。

 とはいえ、さすがに美咲一人に負けたとなるとカメラの前の視聴者たちの印象がだいぶアレな感じになるので、きっちり勝っておく。そうするに越したことはない。


((まあ、それ以上に気になるのは……美咲と一緒にいた人はどこにいったんだろう?))


 美咲は普段ポチを胸に抱いているが、大体誰かのそばにいる。

 これは美咲の行動法則のようなものなので、誰かと一緒にいたはずなのだが、戦いが始まってから見かけなくなっている。


 何かをたくらんでいるのだろう。そうでなければ隠れる意味が無い。

 ちなみに、美咲に何かを企むという考えはない。

 基本的に純粋で素直なので、そう言ったところまで頭が回らないのだ。


((逆に、そっちが気になって美咲に集中できない))


 弱くは無い美咲に加えて、何かをたくらんでいるであろう誰か。

 雫もエイミーも、基本的に真正面から戦うタイプなので、搦め手は頭に引っかかってしまうのである。

 美咲は初対面でもホイホイついていくので、誰と組んだのかが分からないのだ。

 良い子は普段親しくない人についていかないように。そんな常識を教えなかった美咲の両親に対して若干イライラする雫とエイミーである。

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