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第四百三十二話

 イベントとして使った『空間生成』だが、思っていたよりできることは多い。

 バトルロイヤルとなれば遭遇戦となるわけだが、誰と誰が戦うのかがランダムになっていることで見ているものをわくわくさせる。

 そうなると、ステージの設定は重要である。

 秀星が本気を出すとほとんどのステージが『更地』になるのはこの際考えないとして、三十人と三十人がぶつかり合うのでお互いの特徴を加味したうえで選出した結果、どういえばいいのだろうか『コンプレックス・シティ』とでも言うべき雰囲気となった。


 もちろん、ここで言う『コンプレックス』は『劣等感』(インフェリオリティコンプレックス)という意味ではなく、『複合的』という意味である。

 というより、コンプレックスと言う単語の意味は大体これである。

 日本人はこれに似た勘違いをすることが多いので気を付けておくように。

 某カードゲームばかりをしていて、『新商品がリリースされる』と聞いて『何で新しい商品が生贄にされるの?』などとバカなことを言ったことがある白いメッシュを入れた親子のようにはならないようにしよう。


 それはともかく。

 一つの都市なのだが、地下にはガーデニングがあったり、若干無理がありそうな設計の建造物が並んでいる。

 なんだか立体パズルのようだが、秀星としては見ていて面白いのでいいと思う。


 そして早速始まったわけだが……。


「なんだよ。待機って」

「秀星様が動いたら即座に終わってしまうからではないでしょうか」


 とあるビルの屋上。

 そこで秀星はセフィアが掬ったポテチをムシャムシャ食べながら景色をぼーっと見ていた。


「……そういえば、三十対三十のバトルロイヤルなのに、セフィアがいて大丈夫なんだろうか」

「生徒以外が入れない。となれば、美咲様のポチも入れませんし、問題はないでしょう。私は人ではありませんから」

「……それもそっか」


 原子レベルで『人と全く同じ配列』をしているセフィアの体だが、人間ではない。

 人の形をしたロボットというのが一番近いだろう。

 秀星が視線をそらすと、そこでは高志がそーっとポテチに手を伸ばしていた。


「父さん。俺『ダメ』って言ってないぞ」

「あ、それならいただきます!」


 高志はポテチが乗っている皿を丸ごと持って行った。

 そして、瞬きひとつすると、そこには山盛りになったポテチが。


「!?」


 高志は自分が持っているポテチ皿と、新たに出現したポテチ皿を見て驚愕している。


「私がその気になればこの程度の宴会芸は普通です」

「すげえな。まさか俺が脅かされるとは思わなかった」


 セフィアは表情すら変えていない。

 秀星がいいというのなら持っていくのは自由だが、だからと言って秀星の分がなくなるわけではない。


「ていうか秀星、ポテチ食いまくってるけど、あんまりお菓子ばかり食べてると不健康になるぞ」

「エリクサーブラッドの影響で不健康にはなりません。余分な栄養はすべて魔力に変換するから太らないぞ」

「秀星。全世界の人間を敵に回してないか?」

「体内の組織に影響する神器を持ってたらこれくらいふつうですよ」

「そうだな。体の脂肪を自在に操れる神器を持ってた女が『巨乳ごっこ』するとか、動画にあったぞ」

「そいつ殺されるな」

「俺もそう思う」


 まあそれはそれとして。


「で、父さん。どうやって入ってきたんだ?出入口一個しかなくて、警備員がいたと思うんだが」

「答えは簡単だ。警備員に回し蹴りを入れただけだぜ」


 秀星は高志を世界から蹴りだした。


「で、何の話をしてたんだっけ?」

「秀星様が『待機』という指令に不満を抱いていたところです」

「そうだったな」

「とはいえ、先ほども言いましたが、すぐに終わってしまうので仕方がないでしょう」

「そうだな。だって地面を丸ごとマグマに変えるとか普通にできるもん」


 もちろん極論である。

 秀星だってそんなひどいことはしない。

 ただし、『非人道的』だとは『考えていない』のだが。


「……で、あの竜巻。なんだろうな。なんか膨大な魔力が衝突してるけど」


 秀星が目を向けた先には、竜巻が出現していた。

 そしてそれをはねのけるように、圧倒的な『魔力の圧力』が吹き荒れていた。


「竜巻は風香様で、魔力は基樹様でしょう。風属性魔法というと多くのものが使えますが、あそこまで出力を出せるものは風香様くらいですし、そしてそれに対抗できる出力を出せるのは基樹様くらいです」

「基樹、全然本気だしてないけどな」

「神器持ちではありませんが、出力はすさまじいですからね」

「ぶっちゃけ基樹って宗一郎より強いんじゃね?」

「私もそう考えています」

「あ、そう」


 どういえばいいのかわからなくなった秀星だが、もういいと思うことにした。


「ていうか、いたるところで爆発音が響いてやばいな。どんだけ派手なことやってんだろ」

「記者もいますし、演出重視なのでは?」

「まあ、それもありえるけど……」


 秀星は自分の左側から飛んできた矢をつかんで、そのままお返しした。


「たまに流れ弾が飛んでくるんだよな。ここ」

「いえ、完全に急所を狙っていましたよ」

「あれ、そうだった?」


 あまり大した差はないので気にしなかった秀星。

 なんだか手遅れな感じだが、彼にとってはいつも通りである。


「たまに記者とかアナウンサーが見えるけどさ。明らかに追いついてないよな」

「カメラマンだけが追いつきそうな場面が多そうですね」

「そう思うとカメラマンってすごいな。あんなに大きなカメラかついであんな速度で走るって……『逃○中』で『ハ○ター』に追走するカメラマンを見ながら『なんでこいつがハ○ターやらないんだろう』と思う時があるけど……まあとりあえず記者はがんばれ」


 一応、秀星が身体能力を強化するという手段がないわけではないが、頼まれてないのでやりません。


「まあとりあえず、ある程度の人数になるまで待機するのに変わりはないか」

「そうですね」

「ていうか俺、ずっとここにいるのに記者一人も来ないんだけど」

「単に人気がないだけでは?ルックスのいい女子生徒を追いかけている記者がいましたよ」

「まあ、世の中そんなもんか……」


 秀星は溜息を吐いた。

 いったいどのような感じで残って、どのように戦うことになるのか。

 そして最終的に誰と戦うのか。

 とりあえず楽しみにするとして、秀星は耳栓をしてベンチで寝転がった。

 完全にお昼寝モードである。

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