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第四百二十九話

「……」

「どうしたんだ?来夏」


 もうすっかりマブダチになった様子の高志と来夏。

 だが、来夏が若干ふてくされている様子だったので、高志は気になった。

 ちなみに現在位置は、高層ビルの屋上である。


「聡子が来るって言うんだよ」

「聡子?……ああ、ジュピター・スクールの生徒会長だったかな?オカンみたいな嬢ちゃんだったな」

「おう。ただ、あいつが来ると、沙耶がアイツのところに行くんだよなぁ」

「沙耶って?」

「オレの娘だ」

「なるほど。あの嬢ちゃんいいにおいだからな。自前で」

「そうなのか?」

「おう」


 何で知ってるんだこの親父。


「なるほど、それで拗ねてるわけか」

「おう、何とかなんねえかな?」

「無理だな。俺だってたまに抱きつく時あるぜ!……毎回直前でぶん殴られるんだけど」

「『微笑の母親』とか『慈悲の女神』とかいろいろ言われてるけど、お前なら殴るんだな」

「みたいだな」


 三人も子供がいる父親としてそこのところどうなのだろう。


「まあ、沙耶に関しては安心して預けられるところにいると思えばいいだろ」

「それもそうだな!」


 そうなのだろうか。

 というか諦めるのが早すぎである。


「合同演習。どうなると思う?」

「俺達の出番はねえだろうな。記者にちょっかいだしまくろうぜ」

「おお!そりゃいいな。魔法社会は今まで表に出られなかったから、むかついた企業の悪事の証拠付きの録音データを送りつけてイジメるくらいしかできなかったからな。これからは堂々とできるぜ」


 かわいそうに。


「で、高志、久しぶりに息子を見てどう思ったんだ?あんまりあってねえんだろ?」

「ああ。そうだな……」


 高志は屋上から見下ろした。

 そして、沖野宮高校のグラウンドでジュピター・スクールから来る生徒達を待っている。

 となりには沖野宮高校の生徒会長がいるところをみると、二人でまず対応するのだろうか。

 記者がちらほらいるようだが、二人は意に介してすらいない。


「『器を抜いてる』のに、強くなったなって思ってるよ」

「へぇ……そりゃまた面倒なことになってんだな」


 彼らにしかわからない言葉。

 高志も来夏もその言葉に対して疑いがないところを見ると、彼らに取っては普通に存在する言葉なのだろう。


「ああ、本当に面倒なことになってるぜ。ほんと、なんでこんなことになったんだろうなって思うくらいにはな」

「だが、どうしようもなさそうだな」

「そうなんだが、息子が決めたことだ。頼ってきたときにどうにかしてやるのが父親ってもんだ。それまではどっしり構えておけばいい」

「はた目からは楽なんだけどな」

「実際、いつでも頼ってきたときのために備えておくのって面倒なんだけどな」

「でも、『無理』って言いたくねえんだよな」

「当たり前だ」


 高志は近くにあったベンチにどっかりと座った。


「器を抜いた時っていうのは、いやなほど精神がぐらつくからな。本来、アイツはチームに所属する必要はなかったはずなんだが、来夏のチームに入ったのは良かったって思ってるよ」

「だろ?」


 基本的に『周りの迷惑なんて全く考えないリーダー』と言う点において、高志と来夏はよく似ている。

 そして、そう多くの人間が知っているわけではない事実が存在することで、共感する部分があるのだろう。


「さーて、録音機とか買いに行こうぜ」

「おう!」


 まあいずれにせよ変わらないのは……。

 『頼りになる人間』の普段と言うものはいつも、躾がなっていないものである。

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