第四百二十七話
遊んだあとは暴れる。
という解釈でいいのだろうか。
高志と来夏は近くのダンジョンに向かって歩いていったので、学校全体が静かになった。
「……なんか、女子の更衣室とかシャワー室に飛び込んだにしては騒ぎが少ないな」
秀星は不思議に思っていた。
普通なら警察を呼ばれてもおかしくない状態である。
もちろん、高志を捉えることができるかどうかは別だし、それは新しく新設されたはずの『魔法課』でも同様だが。
「俺に話が来ないってことは、ガン見された女子も黙ってるってことか。空間にヒビを入れて突入したのがギリギリ使用前だったのか……まあ、実際に話を聞かないとわからんか」
秀星と高志は、若干の身長差や頬の十字傷など異なる部分はあるが、黒い髪に白いメッシュが入っていること、そしてその容姿はほぼそっくりである。
あえて言えば高志の方は子供のようなとてもきれいな目をしていることくらいだろう。自分でいうととても悲しいが。
「で、宗一郎。そんなぐったりしてどうした?」
「体育館で説明会してたら、あの二人が空間を割って入ってきたからな。とくに魔法に馴染みがなかった一年生の親はもうわけわかんないって感じで……お前の母親がなんとか抑えてくれた。ただ、なんか電話に出たと思ったらすごい表情になってたけど」
「……」
生徒会室のソファでぐったりしながら、『その電話の相手は俺だな』と思った秀星。
まあ別に、いちいち追求する必要のないことである。ちょっと高志が死ぬかもしれないというだけで。
「ついでにいうと秀星。沖野宮高校の生徒会長は、周辺のダンジョンの管理も任されるということを知っているか?」
「アトムから聞いてる」
「なるほど、まあ要するに、何かあったときには電話がかかってくるということだ」
「ふむふみ」
「ちょっとあの二人をつまみ出してくれないか?」
「……」
「あの二人が暴れるせいで、モンスターが逃げちゃうんだよな。他の生徒に影響がもう出ている」
「うちの親父とリーダーが失礼しました」
「全くだ。で、つまみ出せるか?」
秀星は何も言わずに、母親に向けてメールを送った。
内容は単純。
『バカ二人が迷惑かけてる』
である。
すると、即返信された。
メールを開く。
『シ ッ テ ル』
「……」
全部カタカナ。しかも一個ずつスペースを開ける。
こういう文章に恐怖を覚える感覚が何となくわかるだろうか。
「どうした?珍しく顔色が悪いぞ」
「……いや、なんか。メールする相手を間違えたような気がして……」
不正解ではないはずだ。
だが、メールした張本人である秀星まで寒気がしてくるというのもいかがなものか。
「解決はするんだな?」
「……だといいなぁ」
生徒たちが『もっと怖いもの』を見ることがないように祈るしかない。
「はぁ、しかし、あんなに濃い父親というのもすごいな」
「宗一郎はそうでもないのか?」
「ただのアルコール中毒だ」
「……そうでもないように聞こえるな」
「だろ?というより、そっちの父親のほうがやばいと思わないということは、言い換えれば『普通』だと考えていることになる。正直、秀星レベルの魔戦士がそんな普通を持っていたら世界が耐えられないからな」
「それもそう……なのか?」
「秀星は地球を壊すことくらいはできるだろう」
「もちろん」
「そういうことだ」
なんだか微妙な空気が深刻になってきた。
「しかし、あんなにはしゃいだあとにダンジョンに潜れるとは……肉体も精神も元気だな」
「だよなぁ……」
「そういえば、もうつまみ出されている頃だろうか」
「多分そうだと思う」
「そういえば、秀星の母さんの躾はどのようなものなんだ?」
「悪いことをしたらおしりペンペンだ」
「……おしりペンペンか」
「おしりペンペンだ」
とても、なんだか『普通ではない』空気が流れ始めた。
「なるほど。わかった。ということにしておこう」
「ああ、多分三日から一ヶ月は静かになると思う」
「だいぶ差があるな」
「だって予測できないんだもん……」
一言で表すとすれば……『チキショウメエエエエエエエエエエ!』だろうか。
なんだかそれがしっくりくる秀星であった。




