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第四百九話

 一応『守ってほしい』と言われた制限は守りつつも生徒達を襲っていった秀星と宗一郎。

 正直、どうしようもない感じである。

 こんな化け物一体どうすりゃいいんだ。と言うのが生徒達の考えである。

 実際に戦った生徒達は理解すらできなかった。

 そのほとんどは新入生だったわけだが。


「……いやー、知らなかったな」

「ああ。生徒達にまさか『脱出ボタン』が与えられているとは……」


 脱出ボタン。

 言葉通りの代物であり、これを押せば一瞬でイベント会場から転移して脱出できるようだ。

 秀星と宗一郎は知らされていなかったが。


「モンスターの出現頻度は低下していって、最後には出現しなくなったな。それと同時に上級生が消えたよ……」


 戦っても無駄だと思い、そして実行するまでが早すぎる。

 秀星もどうでもいいことをどうでもいいことだと思うまでが速い方だと思っているが、それよりも彼らの諦めの方が早かったようだ。


「で、敵側の生徒達もいなくなっているような……」

「勝てそうだから狩られました。主に俺のチームメイトに」

「不憫すぎる」


 神器使いを除けば、才能や成長率、そして経験の種類まで剣の精鋭は何かと挑戦的だ。

 来夏の所為(せい)である。


「で、これから何をするのか宗一郎は知ってるか?」

「聞かされていないぞ」

「ドヤ顔で言うなよ……」


 生徒会長だがイベントのことは知らなかったらしい。

 と思った時、上空にホログラムウィンドウが出現する。

 中年男性が一人映っていた。


「なんか画面が出てきたな」

「これから何かアナウンスがあるんだろう」

「多分この会場、もう俺達しか残ってないみたいだしな」

「そうだな。私としても暇だ。というか……敵側の生徒であっても脱出ボタンを持っていたかのように行動していた生徒はいたな」

「まあ、襲われる可能性はかなり高いんだから仕方ないだろ。俺らじゃあるまいし」

「私はそれでも一応説明がほしいところなのだが」

「あー。まあ俺も思うよ。あるならあるであんまり結果が変わらないような気がしなくもないけどな」

「それを言っては本末転倒だろう」

「まあそれもそっか」


『人の話を聞く気ないのかゴルア!』


 遂に中年男性がキレた。


「……なあ宗一郎。あの人誰だっけ」

「教頭先生だ」

「……あれ?もうちょっと高齢の人だったような……」

「もともと二人いるが、離任式も始業式も入学式もサボった秀星は知らないだろうな。沖野宮高校が魔法学校になるとなって新しく赴任してきた先生だ」

「用事があっただけでサボったわけじゃないからな?公欠だよ?まあいいけど……俺達二人が通っている学校に赴任。それ相応に実績があるのか?」

「いや、魔法社会とは全く無関係だった企業の元重役だ」

「え、どうやって教頭先生になったんだ?」

「国なんぞ金で黙らせられる」

「全国放送で生徒会長が言うセリフかそれ」

「私は炎上など気にしない。むしろガソリンを注ぐ」

「油で我慢しろ」


『だから人の話を聞けといっているだろうが!』


「でも実際、最高会議の五人がOKサインを出したってことはそれ相応にすごい人なのか?」

「大局は見れないが派閥競争レベルなら強い人は世の中に一定数いる」

「要するに大きな仕事を任されるわけじゃないってことか」

「そういうことだ」


『え、そうなの!?』


「かわいそうに、きっと優秀で有能なんだろうな。でももっと理不尽な奴がいっぱいいるから、最終的には外堀も内堀も埋められて、逃げ場を全部つぶされたうえで使いつぶされるんだよな」

「指示待ち人間だから仕方がない」

「……結構知ってるみたいだけど知り合いなのか?」

「情報社会の闇は深い。とだけ言っておこう」

「なるほど。ネットがだめか。これからの世の中渡って行けるのか?」

「骨董品主義の老害が世に蔓延っているうちは問題ない」

「世代によっては叩かれるぞ。1950年あたりの生まれって人数多いし」

「あんなのは終戦という安心感に加えて、人工妊娠中絶がなくて堕胎罪があったから増えただけだ」

「え、そうだっけ?」

「そうだ。中絶がないから、言いかえるなら『ヤったら産まれる』状態だ。そりゃ人も増える」

「昔の人ばかり精力が強いって言うわけじゃないんだな。安心した」

「まあ、今は出会いも少ないというのは事実だが」

「夢のないこと言うなよ」

「剣の精鋭メンバーは顔面偏差値高いから大丈夫だろう」

「……すでに既婚者がいて、カップルまで一部成立しているんだが?」


 既婚者は来夏。カップルは基樹と美奈である。


「他にも女はいる。大丈夫だ」

「あまり恋愛感情が持たれていないような感じがするが……」

「メインヒロインは誰だろうな」

「奏だろ」

「アイツ『剣の精鋭』所属じゃないんだが」

「まず男の名前を出したことに疑問を抱いてほしいんだが?」

「安心しろ。俺くらいになると魔法一回で性転換くらい可能だ」

「秀星本人もか?」

「もちろん」

「試しにやってみてくれないか?」

「いいぞ」


 秀星が指をパチンと鳴らすと、全身にモヤがかかった。

 そしてそれは煙になって、全身を包み込む。

 煙がはれると、スレンダーな体格の美女がいた。

 髪がとても長くなっているが、黒い髪に白いメッシュが入っているのはそのままである。

 もともと秀星の身長は百七十四センチだが、その身長のままだ。

 なお、格好は男の時と同じである。


「どう?」

「胸がないな。英里みたいだ」

「殺されると思うよ」

「もう戻してもいいぞ」

「分かった」


 指をパチンと鳴らすと、再び煙が出現。

 煙がはれると、男の秀星に戻った。


「どうだ。すげえだろ」

「まあ、秀星くらいならこれくらいはできるか。これからは性転換を望む人がやってくるんじゃないか?」

「知らんわ」

「いずれにせよ。何でもアリと言うことが分かった。で……何の話をしていたんだったか……」

「脱出ボタンを生徒達が持っていたんだなって話だ」

「……なんで性転換の話になったんだ?」

「それはまああれだ。俺達が女子みたいに話の内容がすぐに変わるだけだ」

「終わらないっていうか終わりようがないって感じるあれか」

「それだ……何か忘れてないか?」

「アナウンスだろう」

「どうせ俺達で戦ってくれって言われるだろうから戦っておこうぜ」

「そうだな。そうしよう」


 二人で頷いた。

 そのころ、途中でボロカスに言われていた教頭は……。


『……え、さっきの何』


 秀星と宗一郎の非常識さに、やっと息を吹き返したところだった。

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