第四百六話
秀星に挑むのなら、と言う理由で強化していたわけだが、そうではなくなった場合、当然のことだがその強化は終了である。
パンフレットは『知識』なので放置だが、彼らにかけていた付与魔法はすべて消去している。
彼らの動きは実際それでかなりよくなっていたのだが、秀星が飽きたので強化タイムは終了。
すべて解除したうえで転移して遊ぶのをやめた。
ただし、モンスター側である秀星だが、『その行動が記録される』と言う点が変わったわけではない。
ちょっと動いたからだろうか、椅子を出したあと、そこに座って秀星はぐっすりと眠り始めた。
そして当然ながら、これを外から見ていた観客たちは茫然としていた。
転移して避けていただけなので、当然ながら見栄えなどない。
だが、彼らの視線……特に、魔法と言う概念にかかわっていなかった者は、だんだんその異常性に気が付き始めていた。
ただ転移を繰り返す秀星に、彼らもまた見飽き始めていた。
他の生徒の戦いに視線が移るが、それは仕方のないことだろう。
見逃すべきではない光景も多々あったのだが。
避けていた状況が続いて、逆に生徒達を強化し始め、そしてそれでも単純に回避し続ける秀星に、一部のもの達は文字通り言葉を失った。
はっきり言って異常だ。
圧倒的な力を見せつけるのは難しくない。
それが魔法であるというのなら、圧倒的な出力を感じさせる規模の大きい魔法を使えばいいだけのことだ。
しかし、秀星はとても簡単そうに、自分を狙う新入生たちを赤子の手をひねるかのように対処していた。
魔法にかかわり始めたばかりの生徒は確かに秀星からすれば赤子のようなものかもしれない。
『本気』と言うものを『精神的限界』
『全力』と言うものを『手段的限界』
として、秀星は一体どの程度だったのだろうか。
寝っ転がってダラダラしていたのだから、当然本気など全く出していない。
転移しかしておらず、新入生たちの強化をしてはいるが、自分が何か動くとなればすべて転移なので、手段としても全力ではないだろう。
一部では『秀星は攻撃能力がほとんどない転移専門の魔戦士なのではないか?』と言われている。
奏との決闘では避けることしかしておらず、しかも、攻撃をかわしたうえですぐそばに転移して抱きついていた。
今回のイベントでは、終始転移による回避に徹していた。
もちろん、秀星の戦闘力をしっている者たちからすればそんなことはあり得ないのだが、一部のものはそれで確信しているのだから何とも言えない。
放送ゆえに『すごいものがみたかった』と言いだす記者も多い。
だが、秀星がやったこれがどれほどすさまじいことなのか。
それが分からない以上、まだまだ甘い。
ともあれ、秀星の戦いの第一ラウンドは終了している。
これからは、別の生徒の戦闘映像に視線が移ることとなった。




