第三百九十八話
魔法学校になったことで多くの学校で教師陣に大幅に変更が入っている。
確かに、沖野宮高校は魔戦士の比率が圧倒的に高い高校だったが、それでも魔法と言うものが裏に存在する概念だったため、一般教育を行う必要があり、普通の教師免許を持つものが多かった。
ただし、魔法専門学校になったことで、大幅な変更をせざるを得なくなった。
もちろん、元々いた一般科目を担当する教師をないがしろにするという意味ではない。
それ相応に便宜が図られ、別の高校で教鞭をとっているだろう。
それはそれとして……。
「このように、魔法は使用し、そして体の中に存在する『発動器官』を慣らしていくことでその許容範囲を上げていきます。戦士型の魔戦士であっても、魔力を使わないということはありません。魔戦士はとにかく使うことが推奨されています」
教壇に立っているのは、長い紫色の髪をなびかせるスタイル抜群の美女である。
というか、星宮明美である。
元マスターランクチーム『星明りの大地』のリーダーであり、元FTR精鋭班所属にして、『魔法増幅』と『魔法具無力化』の神器を持つ。
エインズワース王国に襲撃し、一度は国王のアースーを追い詰めて、『自分の体を予め神器で強化しておく』という方法で秀星がコテンパンにしたわけだが、その後の彼女の処遇は『秀星に押し付ける』というものであった。
結果的には、秀星が直々に鍛える秀星兵(正式名称が実はまだ決まっていない)として鍛えているわけだが、この度、沖野宮高校一年一組の担任教師になった。
まあ、いろいろと秀星が調教しておいたので性格も能力も問題ないというわけで教師になったわけである。
(……?)
もともとの所属故に実力者である明美。
普通とは違う空気が教室にあることがわかった。
一人の茶髪の男子生徒から発せられる空気である。
(なにかあったのかしら?)
流石に放課後は職員室にいる明美。
秀星の行動を逐一把握しているわけではないので、その影響もいまいちわかっていないのだ。
(後で聞いてみましょうか)
★
さて、そうときまれば放課後には早速話しかけるのは明美のやり方だ。
目的の生徒、篠原的矢に話しかける。
「篠原君。何かあったの?」
ちょうど、教室には的矢しかいなかったので躊躇はない。
的矢は急に話しかけられたことに驚いているようだが、今日の自分の挙動がなにかおかしいことにはきがついているようで、口を開き始める。
だが、明美を見て、なんだかその衝撃がぶり返しているような感じがするのは明美の気のせいだろうか。
「ちょっと、気になることがあって……」
「気になること?」
「はい、あの……朝森先輩のことなんですけど……」
明美は『早速かよ……』と思うと同時に、『いがいとあの人って先輩って呼ばれることないような……』と思った。
とはいえ、今は関係ない。
「俺、その人の『力そのもの』を、歯車みたいなもので捉えて把握することができるんです」
「それは……『総合的な実力』と言うことでいいのかな?」
「はい。大きければすごく強くて、奥行きがあれば多くの人が関われる。みたいなスキルなんです。俺個人は『歯車相関図』って呼んでます。それで朝森先輩を見たんですけど……」
「どうだったの?」
「……全貌が、まるで見えなかったんです。まだ『視野が狭い』ってこともありますけど……」
大きな物体の全貌を把握する場合、視線を動かすか、それとも自分が後ろに下がればいい。
この場合の『視野が狭い』というのは、その視線を動かせる角度、後ろに下がれる距離に制限がある。ということだ。
「俺、あんなに大きな歯車の人、見たことなくて……あと、その歯車の周辺を見ることで、連結している歯車を把握して、関わっている人を見ることができるんですけど……」
そして、的矢は明美を見る。
明美は納得した。
おそらく、的矢は明美の歯車をすべて把握できる視野を持っている。
そしてそこに近い場所に、秀星の歯車があるのだ。
「なるほど、要するに怖いのね」
「はい」
あまりなかった感想だ。
明美は内心で微笑んだ。
(今まで、秀星の実力を把握できたものはいなかった。隠そうとしている秀星を捉えきれないっていう部分が大きいけれど、『実力そのものを抽象的な概念として把握できるスキル』なら、それが可能。きたえていけば面白いことになりそうね)
内心で黒い笑みを浮かべる明美。
不安そうな表情の的矢に笑顔で接しながらも、内心ではそんなことを考えているのだった。




