第三百九十六話
決闘における秀星の評価だが、何をどう言い繕っても『醜態』である。
武道にかかわったことがある新入生にとっては、秀星の動きがレベルの高いものであることが分かったが、魔法の才能の判定やOESのみで入学したものに取っては、秀星の凄さは分からない。
結果的に、『公式の世界一位』である秀星の評価は、戦闘が映像として残らなかったゆえに新入生の意見が拡散し、『ひょっとして強くないのでは?』と言うものが多くなった。
もちろん、元々魔法社会に関わっていて、秀星に暗殺者を放ったことがある富裕層からしてみれば『なら挑めよ。どうなっても知らんぞ』という感じなのだが、今まで関わっていなかった八割の人間に取ってそんな事情は分からない。
魔法と言うものが発見されると同時に、才能が溢れて『俺ってもしかして主人公かも』という勘違いをしている人間に取って、秀星はある意味でラスボスである。
そのラスボスが醜態を曝したことで、『もっと強いのが裏にいる』と思いはじめたくらいだ。
沖野宮高校では、『今すぐに挑んでも勝てそう』と言う感想もある。
実際に戦えば……というより、挑んだとして戦いになればそれはすごいことなのだが。
ただ変わらないのは、魔法社会が表になったことにより行われるデモンストレーションは、まだ終わっていないということである。
「あ、そう言えばイベントがあったな」
秀星は思いだした。
「確か、全校生徒を集めてバトルロイヤルだったね。別空間を魔法で作って戦うって聞いたけど」
「そうだな。祭りみたいな感じになるぞ」
エインズワース王国で行った『王位継承戦』をする際に使った『地下決戦場』のような感じで、場所のデータを設定し、それを反映させて構築するものだ。
あの時は気温四十度に湿度八十パーセントの草原という地獄のような設定だったが、当然今回はそのようなことはない。そんなことになったら発案者が殺される。
「全校生徒での参加。どんなイベントをするんだろう」
「基本的に上級生の方が練度的に有利のはずですし、勝負にならない可能性も考えられますからね」
全校生徒を集めてサバイバル。
確かに面白いとは思う。
が、だからと言ってそれはそれで問題が出るはずだ。
そういうわけで、雫、秀星、風香、エイミーは分からなかった。
だが、『元魔法学校の生徒』である羽計は違った。
「魔法学校では珍しくない」
「……え、そうなのか?」
「ああ。もう少し時間が立てば情報が出そろうと思うが、おそらく何かしらの『ポイント券』がもらえるはずだ」
「……ポイント?」
「まあ何かの引換券のようなものだ。それも、上級生からみても欲しがるようなものだ。それが配布されたうえで、それを護りながら戦い抜くような状態になる」
「ふむふむ。でも、それだと上級生が一年生から奪うこともできるってことだよね」
「出来るが、逆に言えばポイント券と言う『物質』ゆえに、誰かと取引できるということだ」
「それで『上級生と交渉して守ってもらう』って状態になるわけだな」
秀星は理解した。
雫もうなずく。
「なるほど、バトルロイヤルの途中でも交渉そのものは可能ってわけだね」
「上級生からも狙われるが、逆に上級生相手でも交渉できるし、『上級生としても単に倒すより交渉があった方がメリットが大きい』というルールにしておけば、一方的な狩りにはならないからな」
要するに。
「全校生徒をわざわざ巻きこむってことは、文字通り『新入生全員』に、『先輩たちの強さ』を叩きこむってわけか……こんなゲームもあるんだな」
秀星は『ゲームだ』と呟いたが、実際そう言う面もあるだろう。
新入生がどう動くのか、上級生がどう対応するのか。
そして結果的に何が起こるのか。
とはいえ、確実に新入生も何かしらの派閥が結成されたり、はいったりすることになるだろう。
まだまだ実験段階である魔法学校。
今の内にいろいろ試しておきたいゆえに、こうなったのだ。
「これは面白いことになりそうだな」
誰が来るのか、誰が敵になるのか。
もちろん、秀星の実力を知っている上級生も、秀星の味方になるかとなればそう言うわけではないだろう。
ひとつ言えるのは、『理解した者・知った者だけが得をする』ということだけである。




