第三百九十四話
なんだかいじるやつが秀星から女性陣に変わっただけのような気がしてきたので、カンペを使って話を聞きだすことになった。
「あの……僕、生まれた時からお父さんとお母さんがいなくて、抱きしめてもらったことってなかったから……」
またもみくちゃにされました。
秀星はもう何を言っても終着点が変わらないような気がしてきたので、とりあえず女性陣に押し付けて置くことにした。
スマホをとりだして開く。
その中でアドレスの一つを引っ張りだしてコールした。
一回でつながった。
『やあ、秀星、君からかけてくるとは珍しいね』
「いや、それ相応に俺からもかけていると思うけどな。アトム」
秀星がかけた相手はアトムである。
『しかし……君でも慌てることはあるんだね』
あの決闘の映像が既に行き渡っているようで、少し楽しそうな様子でアトムはそういった。
秀星は鼻で笑う。
「そうなんだよな。というか……俺は本来、『慌てることすらありえない』から、かなり驚いてるよ」
エリクサーブラッドを持つ秀星。
常にベストコンディションを維持する性能ゆえに、驚愕や困惑は全て除外されるはず。
もちろん、それに例外はない。
あまりにも状況がごちゃごちゃになって混乱することはあっても、秀星本人は混乱することはない。
そうなるようにできている。
ベストコンディションの維持というのはそう言うものだ。
そのため、確かに慌てたが、秀星はそれそのものに内心驚いていた。
『……実は彼のように、『鑑定スキル』では測れない『何か』を持っていると推測されるものが、最近発見されるようになっている』
「なるほど……」
要するに、奏もその『何か』を持っていると推測される。と言うわけだ。
『君はどう考える?』
「鑑定系の神器を持っている奴がそばにいるんだろ?そいつでも測れない何かだとするなら……そもそも、『魔力が違う』ってことなんだろうな」
『魔力が違う?』
「文字通り、俺たちが使っている魔力とはまた別の魔力ってことだ。神の力であるプライオリウムを軸にしたわけではなく、この世界独自の『力』だろう」
『そんなものがあるのかい?』
「神は暗躍するものだ。それくらいのスケールでものを考える必要があるってことだよ」
『無茶を言うものだ……』
頭を抱えているのが電話越しでもわかるが、秀星は無視。
「ただ、発見されるようになった。っていうけど、多分来夏の『ギャグ補正』もそれだろうな」
『あー……そう考えると前々からあったのかな?』
「具体的に何があるのかはわからん。だって『俺達が持っている鑑定系スキル』では分からないからな」
『ふむ……それで、暫定として、名前はどうする?』
「本来の本質の技能……ってことで、『オリジナル・エッセンス・スキル』って感じにするか、略称も『OES』で別に悪くないし」
『採用しよう。あー……考えることが増えた』
「視点が定まっただけ運がいいと思って置け」
そういうと、秀星は一方的に電話を切った。
「……まあ、面倒なことになったのは事実か。神器に……いや、『神の力の一端』にすがってきた俺達が、この世界独自のものに触れることでどう変わるのか、楽しみではあるけどな」
秀星はそういって微笑んだ。




