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第三百九十話

 沖野宮高校が魔法学校として登録され、教科書や魔法具が提供された。

 それはいいのだが、いっそ悲しいといえるくらい、九重市には何もなかった。

 一応、秀星が作った効率の良い新ダンジョンがあったり、魔法社会の名家である八代家の実家があったり、その八代家が管理している魔ものが住む森があったりといろいろあるのだが、他の地域と比べてパッとしない感じだった。


 というわけなので、新しくイロイロつくられている。

 元からあったシャッター通りを利用して、強化された重機をフル活用してあたらしい施設が開発されている。


 実際、魔法社会の歴史はそれ相応に長いのだが、秘匿されるべきであるという風潮だったために大きな施設を本州に作ることができなかったというだけの話。

 『こんなものがあったらな』という意見と、それが実際に作れるという状況がそろえば、結果的に動きだすものは多かった。


 秀星が神獣騒動をどうにかしてから数か月。

 魔法社会を表に出して管理する法律が正式に発表され、暫定的なものが出てから数か月。

 世界中で魔法関連の建設ラッシュが相次ぎ、結果的に町並みは変わった。


 とはいえ、魔法は基本的にモンスターとの戦いを想定したものだ。

 『人に向かって突っかかっていく暇と元気があるならモンスターを倒せ』と豪語する者もいたほどであり、確かに魔法資源が重要となる上で、競争はあっても闘争は利益が薄い。

 そんな状況だったので、『本格的に娯楽を目的とした建物』が今まで考案されていなかった。

 しかし、人の想像力と言うものは計り知れないもので、様々なものが出来上っている。


 ただ一つ言えるのは……。


「……広告の数がすごいですね」


 室内用。と言っていいのだろうか。普段着らしいワンピース姿で、オリディアは新聞の中にはさみこまれている広告に目を向けた。

 元から存在する大型チェーン店の広告は確かにあるのだが、それ以上に、魔法関連の広告も多くなった。


「まあ、魔法社会になったし、こう言う部分もあるだろ」


 全てに目を通した秀星は、その時点で興味をなくしたのか、ソファに寝転がった。

 それをみて、オリディアは珍しいと思った。


「何かあったのですか?」

「いろいろあったよ。ただ、世界樹の商品についてのアレがいろいろ五月蝿いままなんだよな……」


 『魔法社会』はもともと規制されるべきものだった。

 それ故に、長蛇の列が形成されても不思議ではない世界樹商品販売店であっても、基本的に制限と言うものはあった。

 しかし、それらはすべて暗黙の了解で形成されたものだ。

 それを言いかえるならば、『無意識に制限を設けようとする常識』である。


 だが、魔法社会になったことで、この制限が消えた。

 それにより、今までの数だと全然足らないという意見が爆発した。

 魔法社会であってもすべての富裕層がかかわっているわけではない。

 言いかえるなら、魔法社会にこれから関わってくる富裕層のものがいる。


 魔法と言うものに対して知識が薄く、そして秀星が反撃的な意味でまだ遊んでいないので、その理不尽さを理解していないものは多い。

 結果的に、秀星に対して抗議するものは多かった。


 なお厳密に言えば、世界樹の傍まで行けば世界樹が生み出す果実が手に入る。

 しかし、世界樹が自ら生成された高ランクの果実を主人である秀星のみが扱えるように保存箱にどんどん入れていくので、彼らが求めているような高ランクの果実は手に入らない。

 

 だからこそ、高ランクの果実を集めるため、秀星に抗議している訳だ。

 もちろん、そんなものを聞き入れる秀星ではないが。


「フフフ、私を従える前とほとんど変わっていないのですね」

「変わるわけないだろ。人は歴史の教科書を見るけど他人事だと思ってるんだからな」

「とはいえ、保存箱に入れないように設定することは私には不可能ですからね。まあ、設定出来たとしても設定を変えることはできないと思いますが」


 また『フフッ』と笑うオリディア。

 秀星を見ているといろいろ楽しいのか、よく笑う。


「まあ、でも今の状況は最善から何番目か。と言ったところだろうな。逆に抗議が来なかったら予測と外れて俺の方が不安になる」

「痛い目にあわなくてもわかる人、痛い目にあわなければわからない人、痛い目にあってもわからない人、いろいろいますからね」

「共通しているのは『俺に文句がある』だけどな」


 とはいえ、秀星としても遊び相手が尽きないのはいいことだ。


「……ていうか、全く来ないわけじゃないんだよな。その遊び相手」

「そうですね。何度か襲撃されていますし」

「あとで襲撃してきたやつを調べたら不法入国者だったんだよな……大丈夫かな。こんなに多くて」


 魔法社会が表になる前から多かった、


「問題はないのでは?いずれ分かりますよ。分からない人もいるでしょうけど、その場合はあなたが見限るだけです」

「それもそうだな」


 落ち着くところに落ち着くものなのだ。

 それが一体いつなのかは不明として。

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