第三百八十四話
「……まあ、後でどうにかなるレベルに収まってるな」
秀星は、そうつぶやいた。
神獣の親との戦闘中ともなれば、口を開ける余裕はほとんどない。
秀星でも集中する必要があるからだ。
しかしそれでも、この神獣と戦いながら、『世界』を確認していた。
「ただ、既に神獣に事情が知られたってことだろうな。まあ、それに乗っかって嫌がらせするかどうかはアンタ次第なんだが……どう思う?」
先ほどから攻撃が来ていない。
が、秀星はそうつぶやいた。
すると、秀星の後方で光が収束する。
そこにいたのは、一人の白い美女だ。
あるいは、天使とも言えるかもしれない。
装着している面積の少ない金属鎧から溢れている魔力光が、まるで二対六枚の翼に見えるのだ。
腰まで流れる髪も、銀髪と言うよりは白い。
もちろん、光沢に満ちたそれを、加齢の結果だというものはいないだろう。
落ち着いたと言うより、全てを知ったようなその瞳も白い。
面積の少ない金属鎧、と言ったものの、ひざ上まであるニーハイや、腕のすべてを覆っているデタッチド・スリーブなど、腕や足はほとんど見えていない。
だが、フリル付きのビキニアーマーと呼ばれてもおかしくない装備だ。
胸は大きく、腰はくびれ、形の良い尻をしている。
しかし、欲情よりも崇拝が前に出てくるであろうその神々しさがあるので、油断はしない。
「……確かに、すでに分かっている。あなた達が、魔法と言うものを、表の社会に隠していることと、そして、それを隠しきろうとして戦っていることを」
「だろうな。召喚獣を解き放った瞬間に、言語をすべて理解して把握したってところか……今だに、神獣が考える脳のないモンスターだと考えている連中に教えてやりたいね」
「私との戦闘に付いてこれるあなたも、かなり異常」
「神獣の親に言ってもらえるとうれしいね。因みにどれくらい生きてる?俺は桁数が六百万くらいだと思ってるんだが」
「概ね間違っていない」
いずれにせよ途方もない年月だ。
普通に考えて、時間として成立するのかどうかもわからない。
「単純に年月で比べるとすれば、私から見ると、この宇宙すらも胎児未満の存在にすぎない。でも、そんな中でその力を手に入れたあなたに、興味がある」
「一体どうするつもりで?」
「私がこの宇宙にやって来た目的は、世界樹を食し、糧とすること。何故世界樹を必要とするのか、それは、あなたにも理解できないスケールの話だから気にする必要はない」
「だろうな。世界樹が目的だってことは予測していて、なおかつ神獣についての知識があってもさっぱりわからんかった」
秀星はお手上げだった。
その『世界樹が目的』というものも、『おそらく神獣に取っても世界樹は特別なものに含まれる』ということを、キーワード形式で推測していたにすぎない。
だが、わざわざ狙うかとなると話は別なのだ。
「そして世界樹を食した後……あなたを犯す」
「……要するにヤるってこと?」
「具体的にはあなたの子供を産む」
ずいぶんとまあアレな話である。
「なんていうか……すごくアレな話だな」
「私の年齢すらほぼ正解するあなたに興味がある。ただ、いやそうな顔をする理由が不明。私は今、あなたの脳から放たれている魔力を読み取って、好きな外見を具現化し、姿を形成しているはず」
「うわー……コイツ嫌い」
「そう言えば、あなたには神器のメイドがいたはず。確か最高端末もこれと似たようなルックスとスタイルだった」
「あの、もうそろそろその話題から離れてくれませんかね?」
誰も聞いていないはずなのに公開処刑されている気分だ。
「……あなた、童貞ではないようですが、まだまだ素人ですね」
「やかましいわ!」
なんでこんな話をしなくちゃならんのだ!とばかりに叫ぶ秀星。
(やはりすべての強者はギャグ要因なのか!シリアスのままではいられないのか!こんな状況なんだ。勘弁してくれ!)
内心絶叫。
すると、神獣の親はコホンと咳払いする。
「朝森秀星、まだ本気を出していないとはいえ、私の肩慣らしにつきあったのは、『最高神』と『利口な神々』を除けばあなたが初めて。それに敬意を表して、ここから戦う」
「!」
一瞬にも満たないレベルの速さで、秀星は集中状態に移行する。
「いい、私の言葉を聞いて、その状態に入れる時間の消費も合格点。私の名はオリディア」
手を振ると、そこに淡く光る西洋風のロングソードが出現。
「参る」




