第三百七十八話
ピリピリした空気がある。
秀星がその発信源となり、アトムに伝わってそれが拡散し、『本当の強者』が戦いの準備を始めたからだ。
どんな相手なのか、どれほどの存在を受けるのか。
それらがさっぱりわからなくとも、秀星レベルの強者が発する緊張と言うのは、周りにも影響するのだ。
もちろん、秀星もむやみに発しているわけではなく、それらのほとんどは大きく隠されたものである。
実際、アトムでも初対面では分からなかったくらいだ。
それほど、多くの者にはわからないほど秀星も緊張している。
それが吉と出るか凶と出るか。
すくなくとも、武官として発言を控えていた者が、自発的に声を出すくらいにはなっている。
それは悪いことではない。もちろん、そんな組織に所属する武官が緊張していたら他のものにも影響はあるだろう。
強者に影響され、強者に近いものも影響されていく。
その連鎖によって、魔法社会全体に緊張が走っている。
そんな中でも、わからないものや否定するものはいる。
しかし、小さな否定意見など意味のないもの。
すぐに巻き起こる雰囲気にかき消されて、あとも残らないくらいだ。
それくらい、魔法社会全体が震えている。
絶対的な強者が持つオーラと言うものに、距離の制限はない。
だからこそ、彼らが今感じているそれらは、秀星が感じている緊張が漏れたものなのか。
あるいは、遠くから来ているであろう神獣の親がそうさせているのか。
決戦は近い。
ありとあらゆる手段も、作戦も、まるごと叩き潰すような、そんな化物が、この地球にやってくる。
神獣の子供と戦っている映像は見た。
しかし、それでどうにかなるかとなれば、おそらく良くはならないだろう。
ならば、出せるすべてを出し切るしかない。
負けて失うのが地球ならまだどうにかなる。
多くのものは気がついていないが、神器を使って本気を出せば、地球を放棄しても。地球人全員が移住できるのだ。
……まあ言わないけど。
親の神獣。
おそらく宇宙からやってくる最初の外来種になるだろう。
いや、この次元に入ってくるということを考えると、凄まじい確率だ。
ただ、そんなスケールのやつからすれば、世界樹を狙おうとすることそのものは珍しい訳ではないはずだ。
とはいえ、神獣たちの事情は関係ない。
地球の地元民からはボコボコにするという抜群の歓迎ムードだ。
どれほどの年月を生きているのか。
楽しみたいものである。お互いにね。




