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第三百七十六話

 神獣を倒した秀星。

 その戦闘映像が出た時点で、多くの者は諦めてしまったのか、世界樹を発見した場合、秀星にそれを報告することで、『見つけてやった恩』を売るという方向性にシフトすることにしたようだ。


 別にそれは禁止された手段ではないし、そもそも世界樹のそばに神獣がいないことの方がほとんどだ。

 そう考えると、世界樹を狙って発見するために調査する方がいいと考えるものはいる。


「……」


 秀星は五年ぶりに頭痛がした。

 残っているマゼンタと青の世界樹。

 その二つが、自宅の庭にあったらそりゃそうなるだろう。


「……なあセフィア。どう思う?」

「そうですね……持っているものほど集まってくる。と言うことはよくあることです。金を持っている人のところには金が集まるのですから、世界樹を持っている人のところには世界樹が集まってくる。ということなのでは?」

「嫌な運命だなぁ……」


 呟きながらも、紙飛行機に『地震警報!』と書いて思いっきり投げる。

 浮遊島めがけてまっすぐ上がっていき、そして見えなくなった。


「その地震警報、慣れましたね」

「これからはもうすることはないだろうけどな」


 二つの世界樹に転移魔法をかけて、浮遊島の適切な位置に転移させる秀星。

 これで、地震が発生した後、そのまま他の世界樹と同じ大きさになるだろう。


(いやもうマジでどうすればいいんだこれ)


 タイムリミットが意外と近い。

 よくあることだ。

 ……あまり起こってほしくはないことだが。


「……確実に面倒なことになるよな」

「ならないはずがありません。それに、神獣の親が出て来るまでの時間も、考えていたより短くなる可能性が十分にあります」


 秀星も頭では分かっているのだが、認めたくないのでセフィアに言うわけだ。

 そして、秀星の脳内に主人印がある故にすべてわかっているセフィアからは、そんなことを言われるのである。

 頼りにしかならないセフィアだが、同時に妥協してくれないので、『秀星にしかどうにもできない時』に心の平穏がほしい時はあまり適さないタイプだ。


「さてと……これからどうするかな」

「既に世界樹がすべてそろったことがSNSで暴露されていますので、逃げることはできませんよ」

「……ねえ、防げなかったの?」

「最高神が作った神器使い五人が相手でした。さすがに不可能です」

「そうか……それはいいんだけどさ。そういう場合はとりあえず最初に言ってくれない」

「いいえ」

「いいえ!?」


 なんだかサラッと反対されたぞ!どういうことだ!


「それだけは承認しかねます。秀星様と私の楽しみの九割が減りますので」

「……」


 知らないということは、退屈しのぎにちょうどいい。

 それは分かる。

 だからこそ、秀星に取って楽しみが減るというのは分かる。

 だが……なぜセフィアとしても、ということを付け加えるのだろうか。そこのところ小一時間問い詰めたいが、今はそんなことをしている場合ではない。


「アトムと相談して、神器使いを集めてもらうか。できればキャリアが長い人がいいなぁ。神器使いの初心者にありがちなのは、変に自信家なんだよね……」

「秀星様もそうでしたね」

「最初に手にいれた神器がセフィアだったもんだから、勢いで童貞捨てたもんな……」

「あのダメ人間が逞しく育ちましたね。私はとてもうれしいです」

「涙流すのやめてくれない?ウソ泣きで実際に涙流せるって性質(タチ)悪いんだが」

「昔はそんなことを言う子ではなかったのに……秀星様のお母さまとも時々話しますが、しみじみと感じます」

「ふーん……え、母さんと話してんの!?」

「当然でしょう」

「当然なの!?」


 なんだかかなりアレな展開になってきた。


「緊張と頭痛がほぐれてきたようですね」

「……そうだな。そうだが……免罪符になるかどうかは微妙だぞ。セフィア」

「ご自由にどうぞ」


 がっくりうなだれる秀星。

 やはりというかなんというか、自分の母親とよく話しているメイドと言うのは強い。

 ツボを全てわかっているのが母親だからだ。


「はぁ……まあいいや。さて、いろいろやりますか」


 秀星はため息交じりにスマホをとりだすのだった。

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