第三百七十一話
秀星は落下してくる亀の下に転移した。
そして、再度タブレットを使って、転送魔法を行使して遠くに飛ばそうとする。
(チッ。プロテクトがいくつもかかってら。遠くに飛ばすのは無理か)
元の位置に戻すのが精いっぱいだと判断。
それに切り替えて、再度魔法を使う。
だが、亀も魔法に気が付いたようだ。
転送魔法は行使されたが、一瞬で対応してくる。
亀はもとの位置に戻った。
しかし、位置はもと通りだが、向きは違う。
いままで、亀はこちら側を向いていなかったのだが、今はこちらを向いている。
「い、今のは一体……」
ブラックプラネットのリーダーらしい男性が呆然としている。
起こったことが理解できないのか、理解したくないのか。
いずれにせよ。ここにいるだけだというのなら邪魔である。
「あんた。さっさと逃げろよ」
「な、何をバカなことを言っているんだ!これは我々の戦いで……」
「アンタ分かってないな……」
秀星は呆れた。
「アンタにできる覚悟じゃあ、こいつを相手するのは無理だって。アンタ。あの亀が上空に現れた時点で、全部あきらめてたろ。そんな顔してたぞ」
「そ……そんなことは」
「何を言っても説得力ないぞ。腰が抜けてることに気が付いてないみたいだからな」
「!」
驚く隊長。
いままで、自分よりも身長が低い秀星に見下ろされていたことにすら頭が回らないのだ。
とはいえ、腰が抜けているのは彼だけではないのだが。
「それと、アンタたちの戦いだとか、そんなチンケなことを言い合うためにきたわけじゃない」
「だ、だが……」
「まだごちゃごちゃ言うのか?だったら言ってやるさ。俺は横取りしに来たんだよ」
「なっ!……ぐっ、くそっ!」
助けてもらった礼すらいえない。
そんな、何の生産性もなく、ただの虚栄心でしかできていないプライド。
この場所に立つまではそうではなかった。
トップランクの魔戦士チームとして、戦っていた。
だが、この場所に立つだけで、今までのそれが崩れていくようだ。
「俺は横取りしに来たんだ。別に、アンタたちが死んでから来ることもできたけど、アンタたちを助けたうえであいつを倒せるからな。だから――」
「もういい」
秀星の言葉を遮る隊長。
「なんだ?」
「もういいと言ったんだ。これ以上、我々を……惨めにしないでくれ」
「……」
秀星は何も言わず、亀の方を見る。
転送魔法を使うと同時に麻痺を撃ちこんでおいたが、そろそろ切れる頃だろう。
転移魔法を使って、亀の近くまで一瞬で移動する。
「そろそろ行きますか……これってあのカメラも守りながら戦った方がいいのか?かなり面倒なんだけどなぁ……あ、セフィア」
「はい」
秀星の横ではなく、後ろに出現するセフィア。
秀星は振り向くことなく命令する。
「いろんなところにカメラがあるだろ?それ全部死守しておいて、ヤバそうだったら放棄していいから」
「畏まりました」
次の瞬間にはいなくなるセフィア。
そして、亀にかけた麻痺が切れた。
次の瞬間、秀星は炎の玉を三つ斬る。
麻痺が解けると同時に跳んできたもので、明らかに音速を超えている。
が、秀星には関係ない。
斬ると同時に破壊するプレシャスの前では、大体のことに意味はない。
「……」
秀星は何も言わずにマシニクルを出す。
次の瞬間、秀星の後ろには黄金の砲台が百個出現。
そのすべてに様々なものがとりつけられており、出現と同時に一斉砲撃。
亀に全弾命中して、甲羅をガリガリ削っていく。
「硬いな」
あまり弾幕作戦に意味はないようだ。
マシニクルを操作して、砲台の装備を変更。
ミサイルやガトリングを外して、リロードに時間がかかる大砲に変更。
次々に連射する。
「……まあ、さっきよりは効いてるか」
秀星はプレシャスを構えなおして転移魔法を使い、亀の眼前に移動する。
そのまま、プレシャスを振り下ろした。
顔面に一発入れる。
かなり効いているのだが、回復能力が高すぎる。
「……っ!」
漆黒外套を着て腕を交差させる。
次の瞬間、亀は思いっきり突撃してきた。
音速を超える速度で動けることは分かっていたが、初速は少し遅いだろうと思っていた。
しかし、そうではないらしい。
漆黒外套を着ていなかったらバラバラになっていただろう。
エリクサーブラッドがあるのでバラバラになっても大丈夫なのだが。
「いい加減に……しろ!」
真正面から正拳を叩きこむ。
すると、突撃中の亀が一瞬浮いた。
もちろん、今も大砲の援護射撃は続いている。
亀としてはイライラするだろう。
「……はぁ、『ジーニアス・リフレクト』」
アルテマセンスを強制的にブーストする秀星。
亀は何か嫌なものを悟ったようだ。
プロテクトを自身にかけまくる。
「今更だ」
秀星はプレシャスを担ぐように構える。
亀は危険を感じたのだろう。炎の玉を何十個と出現させて秀星の方に飛ばしてくる。
「……『ジェネシスアーツ』」
静かに、ただし、内に秘めたものは荒々しく、冷徹なものが秀星から吹き上がる。
「『リュウオウノゲキリン』」
一閃。
それだけで、亀は息絶えた。
いや、息絶えた先で自らを蘇生する手段はあったはずだが、全て秀星により無効となっている。
「見えない削りあいも含めて俺の勝ちだ」
秀星は、全てのカメラの方を一度見て、呟く。
「さて、どれくらいの人間が分かったのか……話になるやつが来ることを願うとしよう」
秀星はそう言うと、事後処理がめんどくさそうな亀に目を向けるのだった。




