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第三百六十七話

 神獣に対抗するためにすることはいろいろあるが、とりあえず人は必要である。

 アトムにも話しておいた。

 最初は『また世界樹が増えたのか……』とか何とか言っていたが、神獣の話になると真面目になった。

 それと同時に、その時倒した神獣の子供の亡骸も渡しておく。


 その亡骸を見て、アトムは悟ったようだ。

 どうやらアトムはモンスターに関しては研究施設に出入りすることがあるようで、モンスターの子供と大人を識別する知識と技術を保有している。

 結果的に、全長三十メートルにもなるドラゴンが子供であることは分かったようだ。


 そして当然のように、アトムはその亡骸を持って行き、魔法社会の中でも武官として知られるもの達に声をかけていった。

 どうせ文官に声をかけたところで話が進まないのは目に見えているからである。

 いずれ文官に行動を制御されるとしても、ヤバさだけは認識しておいて損はない。


 アトムほどではないが、それでも強者と戦ってきた武官たちは、そのドラゴンを見て強さを理解した。

 そしてそれと同時に、それを一人で葬った秀星に恐怖を感じた。

 いろいろな思考が交錯する中、最終的に、彼らは怒った。


 原因は当然秀星である。

 その席には出席しなかったが、伝言を頼んでおいたのだ。


『お前たちの実力と覚悟じゃ、召喚獣を抑えるのが限界だ。本体は俺がやる』


 一体、火に何を注ぐつもりなのやら。

 とにかく、この伝言で怒らないような奴はいない。

 武官ではあるが、結局は『良いモノを得るために努力し、行動する』という労働者だ。

 良いモノを得るために血反吐を吐いてまで頑張ったものが大勢いる。

 そんな中で、十六歳のガキにここまで言われて怒らないほど枯れていない。


 だが、秀星の伝言は続く。


『勝てる奴だけついて来い』


 その言葉に、我こそは、と思うものは多い。

 当然だ。コケにされて、黙っていられるわけがない。


 だが、次の言葉で、彼らは足を止めた。


『何をされても自分で回復させて、どんな理不尽を目にしようと立ち続け、たとえ死んでも自分をよみがえらせて、勝つことができるやつだけついて来い。神獣の親を相手に、傷を受けて出来た隙は覆せず、想像を絶するほど努力が塵のように見えて……』









『……死は軽いぞ?』


 その言葉に、全員が一度、ドラゴンの亡骸に目を向ける。

 自分なら、あれにどう立ち向かっただろうか。

 勝てただろうか。

 それとも、逃げた?

 逃げることすらできず、そのまま――


 そこまで考えたところで、彼らの脳は、これ以上の思考を放棄する。


 時間が必要だろう。

 こればかりは、簡単に結論を出していいものではない。


 怒りから一転し、沈黙に包まれる会議室。

 アトムが手を叩いて、解散を宣言し、この場は収まった。


 彼らの脳に、一体どんな未来が映ったのかは定かではない。

 ただ、認識を変えなければならない。

 だが、どのように?……その答えは、今はまだなかった。

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