第三百六十三話
地震警告とともにシアンの世界樹を浮遊島に送りこんだ秀星。
一週間もすればシアンの世界樹が浮遊島に適合した大きさになり、それに影響する種族がやってくるだろう。
それはそれとして……。
「まさか、もう『神獣』が出てくるなんてな……」
「私ももう少し後だと思っていましたが、思ったより早かったですね」
自宅のリビングで、秀星はセフィアが作ったカステラを食べていた。
「これからも出てくるとなれば面倒だが……いや、出てくると考えておいた方がいいか」
神獣。
神の獣と秀星が呼ぶが、実際にはどういう存在なのかと言うと、『神々が使う魔力』で構成された生物である。
いずれにせよ戦うとなれば面倒なのだが、その最も大きな理由はその魔力の『質』だ。
メイガスフロントにある魔法学校で、基樹とバトっていた秀星だが、あの時、基樹のほとんどの魔法は、秀星が使った魔法を上回ることはなかった。
要するにあれの極端な現象が巻き起こる。
それに対抗するには、こちらも『神々が使う魔力』で構成された『神器』で戦うしかないのだ。
別に神器でなくてもいいのだが、『神々が使う魔力』である『プライオリウム』と呼ばれる魔力をいちいち作って魔法を行使すると戦闘には使えないレベルで間に合わないので、結局は神器を使うことになる。
その戦闘力はすさまじい。
というより、圧倒的な生成能力や防御機能を持つ世界樹が恐怖を感じるほどだ。
「まだ子供だったからよかったけどな……」
全長三十メートルの竜でさえ、まだ子供。
というより、本当に長く『存在している』神獣であれば、その存在年数は桁の量が莫大である。
桁の数が百とか、普通にいるのだ。
もっとも、その長い年月のほとんどは『待つ』ことが目的だ。
世界樹を狙っていたあのドラゴンだが、おそらくは世界樹の質をある程度調べて、その上で親に報告するのが目的だったはず。
そもそも、世界樹が最高の状態になるかどうかは本当にその時代や世界による。
数億年とかそう言ったレベルの話に何度もかかわる必要がある以上、寿命というものは長く必要になる。
要するに『おいしいところを持って行きたいけど、周期がエグイから長生きしてる』ということであり、別に極端に長いからといって鍛錬しているわけではない。
だから本当に恐ろしいのは、『ちょっと鍛錬しようと思った神獣』である。
「ほとんどは眠りについている神獣たち。大丈夫なのですか?ずいぶん疲れているようですが」
「……やっぱりわかる?」
「私たちの主人印があるのは秀星様の頭の中ですから、それくらいはわかります」
それなりに椅子でぐったりしている秀星だが、これはいつものように精神的なものではない。
たった数度の打ち合いで、かなりの技術を使いすぎた。
いくつもの技術を複合し、それを一つに乗せて放つ。
傍から見ればおそらく秀星がやったことは簡単にみえることだろう。
そもそも、周りにいる存在から自分がやっていることを悟られずに付与を行う必要があったので、その分疲弊している。
最後に使った『ジーニアス・リフレクト』
こいつを使うためにいろいろと消費されるものがヤバいのだ。
常にベストコンディションを維持するエリクサーブラッドがおいついていない。
「おそらく、世界樹がすべてそろうころ、あのドラゴンの親が出て来るでしょう。どうするのですか?」
「そいつに関してはある程度出てくる時期も特定できるはずだ。アトムとか、神器使いに声を掛けておく必要があるだろうな。俺が中心になるならまだしも、俺一人では苦戦で済めばいいって感じだし……」
秀星はこの世界にいる魔戦士の中で最も理不尽な戦闘力を持っているのだろう。
それはいいのだが、それでは戦力的に困るのだ。
「いっそのこと周りも鍛えた方がいいかな……もうちょっと前座的な神獣が出てきたらいいんだけどなぁ」
そうつぶやく秀星の表情はやはり疲れている。
神獣との戦いは、どれだけ一発に技術を詰め込むことが出来るか。
ある意味一撃必殺クラスの攻撃を、何度叩きこめるか。それに尽きる。
考えただけで頭が痛くなるのがわかるようだった。




