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第三百六十二話

「……世界樹からの救援信号?」


 現在、白、黒、緑、赤の世界樹の主人である秀星。

 それに付随する精霊たちの言葉を察することができるわけだが、セフィアにではなく、四人から秀星本人に信号を受信したと主張している。


「一体どこにいるんだ?」


 化身たちは、化身たちで一瞬顔を見合わせた後、再度秀星に信号を発信する。

 化身たちは『人にわかる言葉』を持たないので、そう言う感じになるのだ。


「……空?」


 信号を受信した秀星は一瞬考える。

 浮遊島は違うだろう。

 竜人、不死鳥、精霊、天使がいる場所となれば、安易に攻め込める場所ではない。

 そう考えれば、考えられるのは、『元々浮遊性能を持つ世界樹』の存在だ。

 空中から秀星のエリクサーブラッドを求めて落ちてきていた黒の世界樹の例があるが、別に黒の世界樹に浮遊機能は基本性能としては存在しない。

 もともと空に浮かぶことが出来る世界樹に、危機が迫っているいうことになるだろう。


「行くのはいいが、方角はどっちだ?」


 さらに信号を受信。

 分かった秀星は、とりあえず寝間着から着替えて、その世界樹の場所まで行くことにした。

 ただ……。


「……転移遮断結界があるみたいだな。転移魔法を使っても反応しない」


 かなり広範囲にわたって結界が存在するようだ。

 ただ、別に珍しいことではない。

 移動手段は数あれど、『転移』を最優先事項として対策するのは悪いことではないのだ。


「なら、直接飛んでいくか」


 『高速飛行』の魔法を自分にかけて、一気に飛び出す。

 そのまま高度一万メートルで音速を超えて飛びながら、世界樹を目指す。

 途中にいろいろなものが視えるが、今は無視する。

 世界樹の救援信号。

 一体、何があるというのだろうか。


 ★


「……軽い気持ちで来たのになぁ」


 秀星に取って五番目の世界樹、『シアンの世界樹』の近くでうろうろしている全長三十メートルほどの赤いドラゴンを見て、秀星はそんなことを考えた。

 近くに来てみると分かる。

 シアンの世界樹が今かかえているのは、このドラゴンがもたらした絶大なストレスと恐怖だ。


「『世界樹食』の『神獣』か。もう少し会うのは先だと思ってたぞ。しかもまだまだ子供じゃねえか」


 『星王剣プレシャス』と『戦略級魔導兵器マシニクル』を構えて、とりあえずドラゴンを引っぺがすために突撃する。

 数十メートルくらいまでの距離まで接近すると、ドラゴンも気が付いたようでこちらを向いた。

 そして、尻尾を振りかぶる。

 先端が槍のようになっており、あれで突き刺すことも攻撃手段だろう。

 マシニクルからブレードを出して、プレシャスと交差させてその槍を受け止める。

 そのまま押し込んで横に流すと、秒間百発でマシニクルから弾丸をばらまいた。

 しかも、一発も漏れることなくドラゴンに向かう。

 だが、至近距離からでもドラゴンはそれに対応し、鱗に魔力を流し込んで硬化させる。


「残念、連射優先じゃなくて貫通優先だ」


 秀星がそう言うと、弾丸はドラゴンを貫く。

 一瞬うめき声を出すドラゴンだが、すぐに傷が再生する。


「……すでにちょっと食ったな。お前」


 ドラゴンが口を開いて、ブレスを放出してくる。

 秀星は『デコヒーレンスの漆黒外套』を身にまとって突撃する。

 そのままブレスを抜けて、『オール・マジック・タブレット』を出して、特大の火炎球をぶちこむ。

 ドラゴンは目からレーザーを出して、その火炎球を焼いた。


「……お互いに結構何でもアリだな」


 ドラゴンの両手に、なにやら波動のようなものが集まる。

 それを一気に、秀星にめがけて放出してきた。

 秀星はプレシャスを真横に一閃することで、その波動を打ち消す。

 その打ち消すのと同時に、タブレットの魔法球と、マシニクルの大砲を撃った。

 だが、ドラゴンは腕を振りおろして空間にひびを入れると、その中に飛び込んだ。

 空間はすぐに修復され、ドラゴンが見えなくなる。


「……」


 秀星は『ワールドレコード・スタッフ』をとりだして、地図を一瞬で確認。

 すぐにスタッフをしまって、全力の斬撃を真上に放出した。

 それは見事に、ドラゴンに直撃。

 明らかにやばいうめき声を出した。

 傷を治そうとしているが、回復していない。


「修復能力があるんだろ?それを封じる付与をして攻撃するのは当たり前だ」


 ドラゴンは羽を揺らして雄叫びを上げる。

 すると、全長三十センチほどの小さなドラゴンが大量に出現して、シアンの世界樹に向かっていった。


「セフィア!」

「畏まりました」


 シアンの世界樹のそばに、最高端末を先頭に、多数のメイドが出現。

 それぞれが得意な武器を持っている。

 最高端末は、短剣を二本、逆手に持って構えていた。


「油断するな」

「はい」


 秀星はまっすぐ本体のドラゴンの方に向いていく。

 ドラゴンは忌々しいと言いたそうな表情で秀星を見ると、直接戦わなければならないと分かったようだ。

 セフィアの主人印を持つ秀星は、一人で来たとしても一人ではない。


「やっぱり面倒だよなぁ……」


 秀星は一人愚痴った。

 先ほどから、秀星は『神器を使った攻撃しかしていない』のだ。

 それ以外の攻撃が通用しないのである。


「勝てる。勝てるよなぁ。だが面倒だ。いろいろ考えてないと『基本的に俺の方が弱い』っていうのは嫌だな」


 秀星もドラゴンも、普通に見える攻撃に対して多数の付与と、その付与を押しとおすためのプロテクトを何重にわたって使いながら行動している。

 基本的な部分としては、秀星の方が弱いのだ。


「しゃーない。アルテマセンス『ジーニアス・リフレクト』」


 そのコマンドを唱えた瞬間、ドラゴンは、不思議に思った。

 先ほどまでいた人間とは、何かが異なるような、そんな気がして……。


「ああ、安心しろ」


 そんな中で、秀星の声が響く。


「もう終わってるから」

「!!??」


 ドラゴンは自分の体を見下ろす。


 そして、驚愕した。


 自分の心臓がある位置に、穴が開いている。


 しかも、自己再生機能が、全てバラバラに切断されていた。


 いつ斬られたのか、いつ撃たれたのか。


 それが全く分からないまま、ドラゴンは絶命した。


 秀星がチラッと見ると、小型のドラゴンはまだ動いていて、セフィア達が次々と処理している。


「大丈夫そうだな」


 秀星はシアンの世界樹を見上げる。


「連れていくしかないか。救援信号にはそういうのもふくまれてたし」


 内心溜息を吐きながら、秀星は世界樹に魔法をかけ始めるのだった。

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