第三百五十七話
発展しているという点に関して言えば、竜人族たちと天使たちは同じジャンルだ。
近代的な施設を積極的に取り入れている部分もある。
ただ、決定的な違いがある。
「うーん……市街戦も考慮してるな。これ」
「通路が入り組んでいたり、不必要なところで段差になっていたり、見張り兼狙撃用の高い建物。いろいろありますね」
「竜人族の方も発展してたけど、あっちは防衛のことが度外視してたな」
「商業的視点で機能的な作りでしたね。防衛に対する意識は天使たちのほうが高いということでしょう」
非常に前に進むために面倒だ。
もちろん、建物の上を走ったり飛んだりすればいいのだが、それくらいのことは考えているだろう。
思ったより防衛について考えている。
「……そもそもの話ですが、この島。文明種を襲うモンスターはいるのですか?」
「どゆこと?」
「この島は直接空中に作り上げた島です。しかも、地上からは見えないようになっていますし、わからないのでは?それでは、ここにそのようなモンスターが来るとは思えないのですが……」
「まあ、空を飛んでくるとしても大丈夫だろ。空を飛ぶってことは、必然的に一般市民に見つかりやすくなるからな」
時々頭からすっぽ抜けるときがあるが、基本的に魔法社会というのは秘密のことである。
そのため、見つかりそうになればそれに対応する必要があるのだ。
アトムいわく、この対応予算が比率では一番でかいらしい。
「見つかりやすくなったらそれはそれで対応するだろ。あと……仮に飛べたとしても、未知の領域過ぎてビビるのがモンスターだ。安定を求めるのは人だけじゃないからな」
「それもそうですね」
散策する秀星とセフィア。
「……なあ、なんか唐辛子畑が見えるんだけど」
「私も見えますね」
「ていうか、デカくね?主食が唐辛子なんじゃないかってくらいあるんだが」
行ってみると、近くのおっちゃんに話しかける。
「あの、すみません」
「ん?どうした」
「この大量の唐辛子。どうするんですか?」
「撃退グッズ用だ」
膨大な唐辛子すべてが催涙スプレーに変わるということなのだろうか。
なんというか……すごく嫌な現実である。
「襲われたときの撃退用とか、捕らえたあとの尋問用とか、いろいろ使えるぞ」
使い方を間違えれば過剰防衛と拷問である。
天使たちの法律は知らないけど、そこのところどうなっているのやら。
「防犯グッズ売り場では催涙スプレーが並んでいるんですね」
「爆弾もあるぞ」
「……」
管理方法を間違えれば『テロ等準備罪』に引っかかりそうな現状である。
スプレーはまだ防犯グッズで通じるが、爆弾は兵器である。
……秀星には効かないけど。
「天使たちの防衛方法ってなんだかすごくアレだな……」
「地味なことほど対策されないからな。きちんと管理できる年齢になれば、即座に使用するための訓練も行われるぞ」
「子供にもたせたらやばいことになるもんな」
「大人に持たせてもやばいことになるとおもいますが」
催涙スプレーを常に携帯する天使たち。
……世も末というより、なんだか『人が変わるなら天使だって変わる』ということなのだろうか。
秀星にはわからない。
「まあ、育てるの頑張ってください」
「おう。中央にいけばスプレーが売ってるから、土産にでも買っていってくれ」
秀星は土産で催涙スプレーを買うという価値観に脱帽しながら、その場をあとにした。




