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第三百四十三話

 モノを動かすには人がいる。

 人が動けば気配ができる。

 その気配を探るため常にアンテナを張っている情報屋は一定数いる。

 そして最後に、『人の口に戸は建てられない』


 これらが意味すること。

 それは要するに、『他国にバレた』ということである。


「あー……数ヤバイね」


 アトムは露骨に最高会議のタワーの私室でため息を履いた。

 スマホにPC、手紙に、鳴り続ける据置型の電話。

 メッセージの嵐であった。


「なんていうか、皆、エルフのことも世界樹のことも中途半端に知ってるやつが多いんだよなぁ」


 ちなみに、世界樹の場所が発見できなかったり、そもそも強力なモンスターがうようよいるエリアのど真ん中にあったりと、意外に『世界樹の恩恵を受けて生きている存在』というものは少ない。

 そのため、エルフたちが緑の世界樹の恩恵を受けているのがすごく目立っていた。

 そして、そのエルフたちがたまに外部との交渉のために持ち出してくる品は何かと希少なものが多かった。

 緑の世界樹の魔力はエルフと直接関係があるので、人族が挑んでもどうにかなる状況ではなかった。


 もちろん、最高会議の五人が出れば話は変わるだろう。

 しかし、彼らにも簡単には日本を出られない事情はある。

 魔法社会は秘匿性の高い情報が多いので、他国との連携も困難。

 日本が仮にエルフたちに挑んで世界樹を手に入れたとしても、周りは黙っていないのだ。

 『先に手に入れたほうが優先権を得る』というのは、双方の勢力差が変わらない場合は適用されるはずなのだが、こちらのほうが弱いと思っているところは図に乗ってそんなもの適用してこない。

 いじめられっ子が金を得たらいじめっ子が動くのと同じ原理だ。


 秘匿性が高いということを言い換えれば、秀星の実力の噂は広まっても、その噂を証明するものは広まらないと言うことだ。

 だからこそここまで図に乗れるわけである。


「ふむ……流石にイリーガル・ドラゴンとエインズワース王国は距離感保っているね」


 ものすごく関わった二つの組織。

 まだ噂ですら、世界樹からのアイテムが市場に並ぶ提供口が秀星だとは流れていない。

 気がついているものはいても、噂にすらなっていない。

 だが、秀星に関わったことがある者は、なんとなくわかるのだろう。


「しかし、どう捌いたものかな」


 世界樹からの素材ともなれば、流石に下には任せられないものだ。

 だからこそ、アトムに連絡が回ってくるようにしている。


「提供についての何かしら発表会みたいなものを作って、秀星には壇上に上がってもらおうかな。それが一番平和な気がする」


 さすがの秀星もそれくらいはやってくれるだろう。

 こういうとき、本当に面倒な部分は秀星に押し付ければいい。

 身にかかる火の粉を払うまではアトムにもできるが、遠くの火元を消すのは秀星のほうが上手いだろう。


「まあでもまず、掲示板でどうにかするかな」


 次々と送られてくるメール。

 それらに対するアトムの対応は、『完全無視』で決まりだ。


「ていうか、みんな自家用ジェットもヘリコプターも持ってるんだから、浮遊島まで行けばいいのに……」


 まあ、行ったとしても希少度が高すぎるものは手に入らないだろう。

 化身が自分で回収するからだ。

 だからこそこうしてメールの嵐になるのだが……。


「ん?秀星からメールか」


 そしてこんな状況なので、特別な携帯電話も用意している。

 秀星からだったので開けてみる。


『赤の世界樹が増えちゃった。テヘペロ♪』

「……」


 唖然とするアトム。


「……予測してなかったわけじゃないんだが、もうちょっとシステムが出来上がってからにしてほしかったなぁ」


 切実にそんなことを思うアトムだった。

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