第三百二十五話
秀星と雫がショッピングモールに入って、千春とエイミーが魔法具店に入って、基樹と美奈がカジノに入っているように、それぞれが思うように店に入っている。
羽計と風香は道場のような場所で、道着姿で柔道で師範を圧勝。
優奈と美咲は、露天で買い食い。ポチはネコ缶を積み上げる。
アレシアと天理は、本屋に行っていろいろ見ていた。
リーダーである来夏に至っては昼間から酒盛りを始めている。
来夏曰く、『アルコールなんて十秒で抜けるだろ』ということらしいので、問題はない。ないといえばないのだ。
だがまああれだ。
全員がそれ相応に実力者だ。
秀星という存在に若干依存していた部分もある剣の精鋭だが、来夏はそれで衰えるようなものをスカウトしたりはしない。
結果的に、視線くらいは分かるのだ。
初日に問題を起こすのはどうかという部分があるので(来夏がいる時点でその心配は絶望的な意味で無用だが)、それ相応に我慢しているのだが、それでもイライラするのは間違いない。
しかも隠れているつもりで見てくるのだ。せめて魔法くらい使えよと思うくらい露骨である。
「なんかウザいな」
「でも、なんで見られてるんだろうね」
秀星と雫はキャンピングカーに戻りながら話していた。
秀星の手にはレジ袋が握られているところを見ると、冷やかしと思われない程度には買ったらしい。
ちなみに、雫にとってはデートのようなものだったが、秀星が平常運転なので面白くないというのが本音だったが、それを言ったところで無駄であろう。
言わなければわからないような奴だとわかっているのだから、それは言わないほうが悪い。
それはそれとして。
「で、あいつら、キャンピングカーの出入り口で何やってんだろうな」
エルフたちが解錠魔法を使ったり、工具を持ち出して何やらいろいろやっているようだ。
「物色する気満々じゃん」
「ここまで露骨だと清々しいが、全然成功してないと滑稽だなぁ」
何も成せない犯罪ほど惨めなものはない。
と思ったら、秀星の隣の『空間にヒビが入った』
「「!?」」
流石に驚く秀星と雫。
その間にも、ヒビは広がっていき、ベリベリと剥がれ始めた。
そして……。
「あれ?どうしたんだ二人共。そんな鳩が豆鉄砲をくらったような顔をして」
来夏が割れた空間から出てきた。
絶句する秀星と雫。
「あの、説明プリーズ」
「ん?ああ、生活を把握する場合って、ごみ捨て場に行けばその一端が見えると思ってあちこち行ってたんだけど、なんかバール拾ってな。振り下ろしたら繋がった」
来夏はバールを使って次元を越えることができるようだ。
散々神器を使いまくって異世界から帰ってきた秀星としては泣きたくなるような現実である。
「で、これがそのバールだ」
来夏は秀星にバールを渡した。
土産のつもりかこのゴリラ。と思いながらも秀星は鑑定。
なんの変哲もないただのバールだ。
秀星だって振り下ろしただけでは空間跳躍はできない。
いや、その言い方だと工夫すればなんの変哲もないバールでも空間跳躍ができることになってしまうのだが。
「で、秀星。これ直せるか?」
来夏はベリベリに剥がれた空間を指差す。
秀星は無言でマシニクルを向けて引き金を引いた。
まるで逆再生しているように戻っていく。
「おお、すげえな」
そう言う来夏だが、なんだろうな。単なるバールで空間を跳躍する来夏と、神器を使ってひび割れた空間をもとに戻す秀星のどちらがすごいのかいまいちよくわからない。
「で、あれは何やってんだ?」
来夏がエルフたちを指差す。
「中に入ろうとして頑張っているところだな」
「なるほど」
頷く来夏。
どうやら現在進行形で物色しようとしている彼らを怒る気はないらしい。
「工具を持ってるやつが何をしようかと思ってオロオロしてるな」
「ネジすらないからね。あのキャンピングカー」
「まあ、オレも強引には開けられねえからなぁ」
そんなことを話す三人。
ちなみに、このキャンピングカーには高度なAIが搭載されている。
カメラも遠くまで見えるし、マイクも高性能なので遠くの音も拾える。
なので秀星たち三人の会話が聞こえるし、バールで空間にヒビを入れたところを確認しているわけだ。
正直、少し自信がないキャンピングカー君である。
「あ、なんかみんな帰ってきたみたいだし、そろそろ行くか」
秀星が振り向くと、他のメンバーが着々と集まっていた。
……もちろん視線の先は、秀星が手に持っているバールである。
それに気がついた秀星は、バールをそっと保存箱の中に仕舞うのだった。




