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第三百二十二話

 さて、アクセルを思いっきり踏むとどうなるか、皆さんはご存じだろうか。

 説明するまでもなく簡単なことなのでもう言わせてもらうが……。


「おお、すごいスピードで動いてるです!」


 もちろん爆走なのだが、だからと言って、車の中がひどいことになるというわけではない。


 このキャンピングカーはエンジンを積んでおらず、そのかわりに『共鳴融合炉レゾナンス・ジェネレーター』と呼ばれるものが搭載されている。

 簡単に言えば、人が思考していることそのものをエネルギーとして動くというものだ。

 人の思考そのものを読み取れるからと言って、なんでものを動かすエネルギーが生まれるのかと言う質問に関しては答えない。

 物理的なものではなく、高次元情報的な部分の話なので、科学的な法則など完全に無視しているというだけなのだ。


 十三人が乗りこんでおり、その中で常識が吹き飛んでいる者も何人かいるが、一応安全運転の範囲にするという思考が多いのでそれが採用されている。

 結果的に、外から見れば爆走しているのだが、車の中だけで考えると別にそうでもない。と言える状態になっている。


「舗装されていない道路でこんなスピードを出して、揺れが全くないですね」


 エイミーが窓から地面を見てそうつぶやく。

 エイミーからはあまり見えていないが、このキャンピングカーは若干浮いている。

 安全に揺れを気にすることなく走るため、専用の力場を作っているのだ。

 その上を走ることで、悪路すら何もない単なる平面を走っているのと同じである。


「……思うんだけど、これって急ブレーキとか踏んだらどうなるの?」


 簡単に言おう。今このキャンピングカーは時速百キロメートルなど普通に超えている。

 当然のことだが制動距離もなかなかのものだ。

 普通に考えて、止まれるのか。と言う話になる。


「衝撃緩和の魔法が中にあるすべての物体に適用されるように瞬間的に発動するからな。それに、キャンピングカーのレーダーは高性能だから問題ない」


 ちなみにレーダーは、秀星が時々やる『雰囲気のオンオフ』も行っている。

 単なるカメラと違って、こちらは隠されている罠なども普通に発見するのだ。

 『罠』には『危険』という『雰囲気』が含まれるからである。

 機械に雰囲気なんてわかるの?と思った人。今更である。


「……なんか。思ってたのと違うぜ」


 ちょっと苦笑している来夏。

 しかし、言うほど落胆は少ないようだ。

 そもそも、いくら来夏とは言え、誰かがいるかもしれないのに爆走するなどということは本来やらない。

 一応『悪魔の瞳』で障害物や罠などもわかるのだが、その前に、キャンピングカーのそれらの性能をすでに確認していたからと言うこともある。

 ちなみに、キャンピングカーのAIもそれを察知して、わざと『悪魔の瞳』で見やすいように調節していたので尚更だ。


「来夏が運転している車に乗っていて、車内が快適……こんな日が来るとは思いませんでした」


 本当に……本当に感慨深そうな遠い目をするアレシア。

 そんなアレシアを見て、『一体何があったんだ?』と十割くらい本気で思う剣の精鋭メンバーであった。

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