第三百十八話
旅行でもなんでもいいが、あらかじめ話しておいた方がいいと思う場合と言うものはある。
「……話しておきたいことがあると言われてくるのはいいが、何かと言われて世界樹とはなぁ。しかも三本ってどうなってんだお前は」
長い時を生きている元魔王の基樹も、これには呆れたようだ。
「仕方がないだろ?黒の世界樹に関してはお前も見ただろうし、白の世界樹は家に帰ったらなんか生えてたし、緑の世界樹は何か来ちゃったんだから」
「というより、それらすべてがお前のエリクサーブラッド狙いと言うのがまた面倒な事情だな」
常にベストコンディションを保つ。ということを目的とした神器であるエリクサーブラッド。
常に100%の状態にするというものだが、言いかえればそれを超えることはない。
エリクサーブラッドという外部的な要因ではあるが、自分の限界を超えるものではないのだ。
とはいえ、そのベストコンディションを維持するということがどれほど困難なことなのかは、人生を歩んでいるのなら誰もが知っている。
ならば、意思あるものも知っていて当然。
なぜ秀星がエリクサーブラッドを所有していると分かったのかは、まあ、秀星から流れる汗から判断したとしか言えないのだが。
「そして、黒の世界樹には竜人族がいて、緑の世界樹にはエルフか。竜人族は良いにしても、エルフは今頃、でかい壁でも作ってんだろうなぁ」
「まるで知っているような言い分だな」
「グリモアのエルフも、こっちのエルフもあまり変わらないみたいだからな。本当のトップにもなれば、周りと外交する必要があったからある程度分かっていたみたいだが、こっちではその外交すらないんだろ?」
「ないだろうな。そんな雰囲気がある」
普通にエルフたちは周りを下等生物だと見下し、ハイエルフたちは、それ相応に敵にまわすと危険な存在だと本能で知っているのでそれらを見てみぬふりをしている。
児戯に等しいと周りから舐められているから、彼らは横暴な態度をとれているようなものだ。
傲慢な態度を取りながらも、ある種の絶妙のバランスが保たれており、薄氷の上で暴れまわっているのだと気が付いているものはいないだろう。
「ただ、あれだな。『人はすぐ死ぬ』っていうのは、元魔王である俺や、エルフたちは思うだろうな。実際その通りで、人間は優れた者も愚かなものも、すぐに死んで、また新しい世代を作っていく。エルフからすれば、乗りきればいいと考えるものは多いだろ。だって、奴らには『世界樹』があるんだからな」
世界樹の独占。と言葉では簡単に言うが、言うに易しするに難し。実際にやるとなれば、世界樹がもたらす影響範囲が広すぎて、いくらエルフたちが魔法に優れた種族だろうと本気にならなければならない。
まあ、いずれやりとげるのだろうが。
とはいえ……。
「人はすぐ死ぬ。っていうのはまあ、納得できなくもないし、すぐに世代が変わるっていうのもわかるんだが……エルフよりも長生きの文明種がいるってことをわかってるのかね?」
秀星は呟くが、基樹は鼻で笑った。
「さあな。そいつらは基本的に生殖機能が弱いから、喧嘩を売られないために周りに不干渉っていうのが多いんだが、竜人族に関してはシュレイオが圧倒的だ。エルフたちは見限るのに苦労しない連中だから放置してるだけだろ」
要するに竜人族の中でいろいろ忙しいということであり、エルフとやりあう時間なんて設けるだけばかばかしいということだ。
「まあ……まとめるとどうでもいいんじゃないか?不治の病にだって特効薬はある」
「違いない」
基樹の総論に、秀星は同意した。




