第三百十七話
完全なジャミングだとか、光学迷彩だとか、幻惑だとか、一言で言えば『視覚情報では察知できないようにする』という技術は昔から存在する。
もちろん、神器でもそれは可能。
しかし、秀星は同時に『別に住むだけならたいしたことではない』と考えているので、意外とセキュリティは甘い。
『解除』はできないが『突破』はできる。といえる状態になっているので、空を飛ぶことが出来る種族は大体乗りこんで行けるようになっている。
黒の世界樹のそばには竜人族。緑の世界樹にはエルフが既に住み始めているが、残る白の世界樹にも、『文明種』ではないが、空を飛んでいどうできるものが住みついていたりする。
まあ、鳥だったり竜だったりするのだが。
そこは大した問題ではない。
「なあ秀星、あの空に浮かんでるの。一体何だ?」
セキュリティを突破することそのものは簡単にできる。ということは、『それ相応の素質があれば簡単に分かる』ということでもある。
当然というか、必然というか、『悪魔の瞳』を持っている来夏にはバレる。
別に知られたところで問題はないのだが。
「ああ、あれか。世界樹がそばにいたりしていたから、広い空間を提供するために作った」
「へえ、なるほどな」
来夏は島を作ったことそのものに対して関心はない。
来夏は神器使いではないが、神器使いを除けば世界でもトップクラスの視野の広さがある。
神器使いとそうではない者の境界線だとか、神器使いではない者からみた神器使いの底の深さとか、そう言う部分が分かるのだ。
しかも、やったのは秀星である。
やるとなれば容赦も躊躇もないので、底が見えない力を行使するのならこれくらいはできると考えているのである。
もっとも、そのような価値観を受け入れることが出来るということはすごいことでもあるし、逆に危険でもあるわけだが。
ただそんな来夏でも、世界樹はそれ相応に気になるようだ。
「行くのは簡単なのか?」
「転移魔法で一瞬だな」
「ほう、なら、今度みんなで行こうぜ」
「剣の精鋭で行くのか?」
「おう。その方が楽しそうだからな」
そう言ってニカッと笑う来夏。
とはいえ、秀星としても連れていく人数が多ければ世界樹の方も喜ぶだろうと思っているので、それそのものは問題ない。
「そういえば、基樹たちは剣の精鋭に入ったんだよな」
「おう、良いメンバーが増えてうれしい限りだぜ」
元魔王である基樹は黒の世界樹がいいだろう。
逆に元勇者である天理は白の世界樹だろうか。
そして美奈はどこでもよさそう。
「で、世界樹は何本あるんだ?」
「黒と白と緑だな。黒には竜人族、緑にはエルフが住んでて、白はあまり害のないモンスターたちが住んでる」
「なるほど……旅行するなら黒がよさそうだな」
「同感だ」
世界樹に対して好印象を持つ。ということを目的とするなら、黒の世界樹が良い。
シュレイオは今忙しいと思うが、倫理教育が優れているので普通に行くだけでも問題ないはずだ。
緑は……エルフが世界樹の周りをぐるっと一周するように壁を作って、独占しようと頑張っているところなので、見ていて気分が良いものではないので今は却下。
白に悪い部分はないが、良い部分が薄いので、初対面なら黒が良いだろう。
「今度の土日で行こうぜ」
「フットワーク軽いよなぁ。剣の精鋭って……」
秀星はそんなことを呟きながらも、旅行に関しては頷くのだった。




