第三百十六話
「本当に世界樹のそばに町を作っているみたいだな……」
エルフが緑の世界樹のそばに来ている。と言うことは、秀星は来た瞬間から分かっていた。
もちろん、秀星はあらかじめ言った通り、単純に住むだけなら別にたいした問題ではないと判断している。
それは、もともと住んでいたエルフたちであろうとなんの関係も問題もないと判断している。
呪いだとかいろいろあったが、既に彼らの手におえるような存在ではなくなったのだ。
緑の世界樹の方も、散々痛めつけられていたはずだが、今ではもう何もエルフたちに思うことはないようで、化身の方も、エルフたちが作っている町をボーっと見続けている。
「あとは、意趣返しをするかどうかって言うだけの話か。まあそれにしたって、世界樹が持っている権利だけどな」
秀星は保存箱をとりだして、ホログラムウィンドウを出現させる。
世界樹から手に入れたものだけを表示させてみたが、本当にいろいろあってさばききれないほどだ。
食べるにしても秀星は大食いと言うわけではないし、ポーションなどを作ることもできるが、一体何本作れるのか、今は分かってもこれからは分からない。
「一応、ここに来るまでで彼らが手に入れていたものは、普通に渡しているみたいだな」
エリクサーブラッドの影響で、常にベストコンディションの世界樹。
あの森で作っていた彼らが望んでいるレベルのものは、すでに簡単に作れるレベルになっている。
と言うより、あの時点でかなり衰弱していたのだから、ある意味当然だ。
ちなみに、世界樹の輝きにしてもまず違うので、それを考えて、もっといいものを作れるはずだと考えるものはいるだろう。
呪いをかけようと判断するものだって出て来るだろうが、もちろん、そんなことはさせない。
世界樹のそばで生きて、ただ恩恵を受けることも、秀星は禁止することはない。
それを禁止する権利は、秀星だって保障されていない。
「今以上のものを手に入れたいと言うのなら、そこから先は特権だ。まあ、一応交渉したいというのなら席には座るけどな」
秀星はそう言って、不敵に笑う。
エルフがどれほど素晴らしい種族だろうが、秀星にそんなブランドは通用しない。
第一、秀星は自分の体をいじれば、エルフになれる。
そんな前提では、エルフであることそのものに価値を見出すことはない。
何ができるのか、どんな可能性があるのか。
エルフたちと自分は仲良しではないのだから、無条件で渡すなど片腹痛い。
「さーて、どうイジメてやろうかな」
秀星は不敵に笑う。
こうして世界樹の傍まで来た。
他にも、どこか嗅覚が優れている感覚がする。
いずれ自分にも近づいて来るだろう。
その時、秀星はどんな判断をするのだろうか。
選択肢が多い未来の自分の予想と言うのも、それ相応に楽しいものである。




