第三百十一話
世界樹が浮遊島の大改造を終えた。
と思ったらアトムが来た。
「……ちゃっかりしていると思えばいいのか?」
「まあそのように考えてもらって構わない」
実際、興味があるということはあるだろう。
秀星としてもそれが分からないわけではない。
というわけで……。
「ま、転移魔法で行くとしますか」
「……簡単に言うけど、私にもできないのだが……」
「んなこと知らんな。まあ、もうちょっと『再定義』って言う概念を考えていけばアトムにもできるようになると思うぞ」
「……そういうものなのかい?」
「『常識』っていうのはな。広げていくことが大切なんだ。じゃないと適者生存に加われないぞ」
「君にそれを言われるとは……」
ちなみに転移魔法は発動から適用まで一瞬である。
容赦も遠慮もない。
秀星は白の世界樹のところに来た。
「……でっか」
「これは大きいね……」
圧倒的なスケールだ。
大樹そのものの高さは千メートルはあるだろう。
幹もそれに応じてものすごく太い。
そして、すでに多くの果実を実らせているその枝。
体調(樹調?)がいいからだろうか、果実だけではなく全体がとてもキラキラ光っているようにも見える。
「これほどの存在だったとは……世界樹と言うものを知識として知っていたけど、ここまですごいものだとは思っていなかったよ」
「だろうな。こういうものだって予測出来るような奴がいたら連れて来いって話になる」
「……それにしても、この世界樹はそれ相応に元気な雰囲気があるような……気のせいかな?」
アトムのそのセリフに、秀星はチラッと視線を動かす。
その先では、白の世界樹の化身が枝の上を走り回っていた。
ちなみに、世界樹の方が大きくなろうと、化身が幼女であることに変わりはない。
元気に走り回っている。
「それにしても、疑問がある」
「なんだ?」
「世界樹と言うものは圧倒的な生産能力を持っている、その一環として、自らの持続のためにリカバリー機能が存在するはずだ。だが、外的要因でそれが達成しているように見える」
秀星はアトムのセリフを聞いて、『思ったより視えてるんだな』と思った。
「それは俺のエリクサーブラッドの影響だな」
「?」
「俺が持ってる神器の一つだ」
「ふむ、それによって抜群のエネルギーが供給されているのかい?」
「エネルギーの供給そのものはエリクサーブラッドは得意じゃないな」
「そうなのかい?かなりのエネルギーが地面から供給されているようだが」
「結構視えてるんだな。まあ、この地面にエリクサーブラッドを循環させているのは確かだが、エリクサーブラッドの力は『エネルギー供給』じゃなくて『ベストコンディションの把握と維持』だよ」
「ベストコンディション……ああ、『文字通りに』と言うことだね」
「そうだ」
神器を使う場合に注意しなければならないのは、抽象的な部分や、人がまだ完全に使えない部分であっても、神器がその言葉の通りに再現してしまうことだ。
人間はベストな状態でいろいろなことに臨むのが望ましいが、当然、ベストだと思っている時であっても、それが100%だとは限らない。と言うより、低い可能性の方が十分ある。
文字通りの100%にする。
それがエリクサーブラッドの力である。
エネルギーの供給が行われていることは間違った意見ではないが、それはあくまでも結果の一つである。
「さてと、後は……竜人族にでもあっておくか」
「……」
「どうしたんだ?」
「……いや、世界樹を大きくする『程度』のことを気にしていた私は甘かったんだな。と思っただけだよ」
「よくわかってもらえたようで何よりだ」
というわけで、次は黒の世界樹のところである。




