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第三百五話

「アトム〜。助けてくれ〜」

「どうしたんだ秀星。そんな通販で買ったゴルフクラブセットを嫁に発見されたみたいな声出して。珍しいね」

「わかるやつが限られてる例えやめてくれない?」


 高いものは本当に高い。

 まあ、秀星の収入を考えれば別にゴルフクラブセットを買うことなど屁でもないのだが。

 ちなみに秀星が困っているのは、世界樹が『準備期間』を終了させたことだ。

 実はすでに影響が出ていたが、まだ序の口なのである。

 その証拠に、白の化身が妖○体操を踊り始めた。妖怪のせいにしたいが近くに見当たらないのでアーロンのせいにしておこう。

 それはともかく、秀星はアトムに連絡しているのは、プラスの部分が予測より多いということだ。

 言い訳だったりいろいろ言いたいことはあるのだが、とにかく一つ言ってしまえば……。


『世界樹舐めてた』


 ということである。

 そしてこういうときこそアトムたちに直通番号をかけることができるとイヤッホオオオオウ!な事ができるのだ。

 ただ正直、秀星はアトム相手に借りを作りたくはない。

 その恩というものは、たとえ借りが一つであっても、利子だけ取り立てていけば無限に使えることを知っているからだ。


「ふむ、一応確認するが、プラスの要素は大きいんだね?」

「プラスの要素が大きいのは確かだけど、それは人間だけじゃないんだよなぁ」


 今のところ、秀星を主と認めて贔屓するが、世界樹の意思とは関係なくばらまかれるシステム的な部分は人間だけに影響を与えるわけではない。


「要するに、モンスターの方も活発になるということか」

「ダンジョンの中までは影響しないんだが、地上にいるモンスターは影響があるな」


 秀星はそれを言いながら、『そういえば異世界にいた世界樹の恩恵を得ていたエルフたちは、地上ではいろいろ傲慢な態度を取ってたけど、ダンジョンに関しては素人だったな』と思い出していた。

 基本的に世界樹がある森から出ることはなく、世界樹の独占権を主張し続けていた者たちだった。

 ただし、ダンジョンの中では人は平等である。

 だからこそ、エルフはダンジョンには潜らなかった。

 それがいいのか悪いのかは、秀星は興味はない。

 ただ、『権利』はあっても『資格』はないと思っていた程度だ。


「ふむ……だが、モンスターが強化されるということは、取れる素材も良いものになるだろう」

「なるよ」

「人間の方も強化されるとは思うが、それは不味いね」

「そうなんだよな」


 ちなみに、距離によって影響範囲は異なるが、最大影響範囲は日本全体である。

 これは、世界樹そのものの大きさを抑えているゆえにここで止まっているだけだ。


「その世界樹。動かすことはできないのかい?根本的なことを言えば植物だと思うのだが」

「あ、それもそうだな。ただ場所がな……」

「空中に浮遊する島のようなものを作ればいいだろう。君は転移魔法を使えるのだからいつでも行けるはずだ」

「……結構簡単な解決方法があったんだな」

「簡単なことなのかどうかは個人によると思うがね」


 秀星は無視した。

 もちろん、永久的に浮遊し続ける島を作るとなると、特殊性があるものをいくつも用意する必要がある。

 保存箱にも必要なものは入っているし、レシピブックを見れば方法はわかるので面倒というほどでもない。

 秀星は世界にとって例外なことが多すぎるのだ。異世界帰りなので当然である。


「ただ、場所がな……」

「その、世界樹の『選定の果実』があれば、君が主人だという証明になるのかい?」

「無理だな。世界樹に対する世界の認知度が低すぎて、『事実』であっても『真実』にはならない」

「『事実』であるなら十分だ。場所に関しては後でメールを送ろう」

「相談に乗ってくれてありがとな」

「もう少し早く説明できていたとは思うけどね」

「俺にだってサプライズを考える脳くらいある」

「なるほど。覚えておこう」


 というわけで。

 世界樹はお引越しである。

 空中にな!


「あ、秀星。相談料として頼みがあるんだが」

「借りはチャラな」

「しっかりしてるねぇ……」


 どうやら、『恩の貸し借りにおける利子』という考え方はお互いに持っていたようだ。

 恩は一つだろうと二つだろうと変わりはない。

 一つあることが重要なのだ。

 人はそれを知らずに、売ってはいけないものを売るのである。

 そして、それを知っているもの同士が取引をした場合、借りを消そうとしてこういうことを言うのだ。


(さーて、頑張って作りますか)


 せっかくの世界樹だ。

 それ相応のものを使って引越し先を作ろう。

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