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第三百三話

「なんか最近、体調がいいっていうか、そんな感じがするね」


 雫はそう言った。


「そうだな。ダンジョンに入ったりするとなんとなく普通に戻っているような気がしなくもないが、朝にちょっと疲れが残っている時があったのに、今ではそれがない」


 羽計もうなずきながら雫の言葉に同意する。


「あまり、ジュピター・スクールで特別なことをしていたというわけではないと思いますけど」

「まあそうだよね。私、お父さんが寝癖がない状態で朝起きてるの見た時はすごく驚いたもん」


 エイミーと風香としてもいろいろ違いは感じられるようだ。


「……」


 そしてそれに対して何も言わない秀星。

 もちろん、彼の場合はエリクサーブラッドの影響でベストコンディションである。

 しかし、それはいい変えるなら『単なる』みたいな言葉が付くのだ。

 エリクサーブラッドですら影響することが出来ない領域に踏み込んでくるので、変化がないわけではない。

 いずれにせよ、何も言わないということは原因が分かっているということである。


「秀星君はあまり変わってる感じがしないけど……」

「まあ、そうだな」


 正直なところ、本当に細かい部分が影響しているので、あまり表には見えにくいのだ。

 しかも、何が原因なのかが分かり切っているので、『何故』と言う話題になっても言うほど精神的な動揺はない。

 もともと表には出ないタイプだし、なによりばれても問題ない。

 第一、剣の精鋭のメンバーが『世界樹』というものの名前すら知らないだろう。

 ギリギリで来夏とアレシアが知っている程度。

 所属するとなれば基樹と天理も知っていると思うが、その程度だ。


 秘匿、と言うほどではないが、サプライズのために取っておこうと考える程度だ。

 どこかから情報が漏れたとしても問題はない。


 ただ、なんだか忘れそうになっているが、基本的に魔法社会と言うのは裏の世界なので、表社会にはばれないようにする必要がある。

 そのため、世界樹をカモフラージュしておく必要があるのだ。

 ただ、これは問題ない。

 世界樹はこれを自分でできる。

 秀星から見れば確かに世界樹なのだが、他の存在から見ればただの木である。

 庭にあるくらいなので大きさもそこそこなので尚更だ。


「まあ、体調がいいのは悪いことじゃないし、問題ないだろ」

「それもそうだね。フフフ、いつもは五回しか抜けないのに、昨日はじゅう――」


 余計なことを言いだした雫の頭に羽計が手刀を振りおろす。

 なにやら『バギッ!』っという聞こえてはいけない音が聞こえた気がするが、秀星は無視した。

 ギャグ補正の強い雫にそんな常識は通用しない。


「ふぎゃっ!」


 そしてそのまま自分の机に撃沈。


「余計なことを言うからですよ……」


 そうして溜息を吐くエイミー。


(まああれだな。根本的に何かが変わるなんてことはあり得ないか)


 要するに、いつも通り平和なのである。

 ならば、もうそれはそれでいいのだ。


(それにしても……)


 秀星は全員が住んでいる家の位置を思いだす。


(……思ったより影響の範囲が広いかもしれないな)


 そんなことも考えながら、雫達のどつき漫才を見るのだった。

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