第三百一話
緑の世界樹の完全蘇生。
正直、世界樹と言うものを知っているものからすれば『はっ?』となるほどの現象だ。
基本的に、世界樹と言うものは圧倒的な生産性能が存在し、それが基本である。
だが、秀星がいろいろと調節しているように、世界樹がストレスを抱えない状態と言うものがある。
逆に言えば、ストレスを抱え続ける状態と言うものが存在する。
そのような状態が続けば、性能という意味では格段に落ちるものだ。
そして秀星も知っていることの一つとして、世界樹の生産効率を強引に上昇させ、世界樹本体へのリカバリーが働かなくなるようにする技術と言うものが存在し、それが実は言うほど難易度が高くない。
圧倒的な生産性能を誇り、自らへのリカバリーも本来なら万全なはずの世界樹が傷付いていたのはそういう理由だ。
ちなみに、緑の世界樹は盛大に傷付いていたわけだが、実はあの状態だと、十年もしないうちに加速度的に性能が落ちていくのだ。
そして最終的には、リカバリー能力が働かない世界樹は後継者という名の種の生成もできず、ただただ朽ち果てていくのみである。
世界樹は攻撃機能を何も持っていない。
植物である故に生み出している成分などはいろいろあるのだが、人をはじめとして、生物に危害を加えることが出来るような明確な『武器』を所有しているわけではない。
爆弾を作ってそれを投下。みたいなことはできない。
だからこそ、強引に引き出された恩恵を享受しようとだけ考える卑しい者がいても、世界樹の方は何もできないのだ。
世界樹にも意思は宿る。
そしてそれが、化身と言うものに現れる。
その結果疲弊し続けた姿が、あの緑の世界樹の化身の姿である。
【緑の世界樹にとって最大の幸福】
もしそれが何なのかと言われれば、それは『秀星がそのあたりの事情をすべて理解している』ということだろう。
何があったのか、それは厳密には分からない。
だが、リカバリー機能が優れているはずの世界樹が疲弊している。と言うところから、そこまで一瞬で割りだしたのだ。
秀星が使った『ミーティア・インフェクション』
実を言えば、あのロケットにも秘密はある。
ロケットにも色々種類はあるが、秀星がブッパしたものには『秀星が余計だと判断する残存魔法を全て破壊する』と言う機能が備わっている。何をどう言い繕ったとしても自己中心的な機能だ。
それによって、世界樹にかけられていた『強引なシステム』を丸ごと粉々にしたのだ。
……ちなみに、言うほど難しくはないとはいったが、それでも相手は世界樹である。それ相応の時間とコストをかけた計画であることは明白で、秀星もそれを理解していたが、そんなものは関係なしに粉々にした。
すでに恩恵を受けているものが所有・利用権を得る。
秀星にそんな私見は通用しない。
秀星の持論の一つ『ありとあらゆる特権は、上位の存在が持っているのではなく、実は誰もが持っていて、そしてその権利は等しく保障されていない』というものだ。
彼らが信じているものを、秀星は理解したうえで、そして否定するのである。
言うまでもなくそれは強者の特権である。
緑の世界樹個人……個樹?とにかくその話に戻そう。
秀星であっても攻撃性能を付与することが不可能な彼女たちは、『自らの怒りを示す手段』を持っていない。と言うことになる。
だがしかし、彼女たちは『怒り』を伝えることはできないが、『感謝』を伝えることはできる。
圧倒的な生産者である世界樹。
当然だが、そのような存在にしか生み出せないものは当然ある。
そしてそれをどう伝えるか、と言うところに行きつくのだ。
緑の世界樹の位置は、秀星の自宅の位置から遠く離れている。
とてもじゃないがというより、とても無理である。
だが、呼ぶというのもどうなのかと思う。
感謝しているから来てください。というのは、なんとなく変だと思うのだ。それ相応に人を見ている緑だからこそそう思う。
……植物なんだから動けないのは当たり前じゃん。というのはなしだ。幼女が『う〜〜……プシュー』と頭をひねっているのだから周りの人間は暖かく見守るべきである。
ついでに、『いや頭パンクしてるよね』という指摘もNGである。だってもともと植物だ。頭なんてない!
そんなときは交流がある白と黒と相談である。
当然二人(正確に言えば二本)も快く相談に乗ってくれる。黒はぼーっとしているが。
そうして二時間が経過したとき、白が何かを思い出したかのように手をポンッと叩く。
で、自分の本体の中から、白い装飾の小さな箱を持ってきた。
幼女にとっての手のひらサイズなので非常に小さい。
さすがの二人も驚いた。
化身である彼女たちが、何かを手に持っている。ということがあまりにも信じられないのだ。
自分たちが生み出したものは大丈夫だが、それ以外のものを手に持てると思わなかったのである。
白は箱を開いて操作すると、自分が作ったものをその箱に出し入れしていた。
しかも、体積に関係がない。
オマケに、明らかに霊体……要するに、質量が存在しない物体であっても収納している。
これをみた緑は、『これだ!』と思った。
そしてその時、黒がぽんっと手を叩く。
自分の世界樹の方に歩いていって、白が持っていたものと同じで黒いだけの箱と、緑色の箱を持ってきた。
緑は、自分の色の箱を受け取って歓喜の舞を踊る。
それに釣られて白も踊った。
黒は相変わらずボーッとしている。
そして、それを見ていたセフィアは思った。
『二時間も話し合っていたあれになんの意味が……』と。
いずれにせよ、数億年を余裕で存在できる世界樹は時間の感覚が大幅に違うということなのだろう。
無粋なのはわかっているので口出ししなかったが、それはそれでどうなのかとセフィアは思った。
というより、過程をまるごと放棄するかのようなオチがあるのに、話が終わるのを待っていたセフィアもだいぶ暇である。




