第二百九十八話
説明を求める。という視線を秀星はセフィアに向ける。
まず世界樹という存在は、別の色のものがあるだけで同じものはない。
そして一度植えると、圧倒的な速さで根を広げるため、移動させることはできない。
一番重要なのは、世界樹がもたらす圧倒的な魔力資源である。
ほぼ枯れ果てているような見た目でも、手に入れた者は繁栄を手にすることができると言われるほどだ。
それが神器持ちであっても例外ではない。
世界樹がそばにあることでできるようになることは恐ろしいほどある。
断言する。
神器を使いこなすために試行錯誤を繰り返している秀星であっても、世界樹という存在を『最高の状態で維持する』ことはできても、決して『使いこなす』ことはできない。
身に余るほどの存在、というわけではないが、圧倒的な『生産存在』である世界樹は秀星にとっても末恐ろしい存在なのだ。
しかし、秀星は世界樹があることを追求したいのではない。
なんでよりによって『白』なのか。と言いたいのだ。
色が分けられているのは当然目的が違うからだ。
その中でも、『白』は厄介で、秀星が持っている『黒』は言うほどではない。ということである。
「白の世界樹の種が宿ったので、悪いものではありませんから育てておきました」
「使用人に過度な裁量権を与えるとこうなるんだなっていうのがよくわかるセリフだ……」
ただし、もう少し秀星がメイガスフロントにいるとなればセフィアも報告したかもしれない。
育ち始めたときからその恩恵を与える世界樹だが、しっかりと世話をすればもっとしっかり育つ。
育ち始めは秀星レベルの話で考えれば簡単。といったレベルだが、ここからは秀星がする必要があるだろう。
その作業が必要になってくるのは夜なので、学校に行くときに支障が出たりはしないが、秀星としては予定が狂った。
「さて、こっちも植えますか」
秀星は『オールハンターの保存箱』を出して、種を取り出す。
白の世界樹から十メートルくらいのところに植えた。
所詮庭なのでそこまで広くない。
ここが限界である。
「あくまでも概念みたいな感じだからなぁ」
ちなみに、種を持っていた秀星だが、実際には種を持つということは不可能である。
あくまでも種というのは『一つのものを世界樹たらしめる概念そのもの』であって、物質として存在しているわけではない。種以外は普通に触れるのだが、種は触れないのだ。
こればかりは、『オールハンターの保存箱』の『概念収納』のルールを応用したものだ。どのようなシステムなのかは名前で判断してほしい。
「さてと、どんなふうに育つんだか……あ、もう出てきた。そんな隣に成長しているやつがいるからって君まで頑張らなくていいよ」
秀星はマシニクルを出して、血液をマシニクルの方に入れて種に注ぐ。
種は急ぐことをやめた。
厳密には、秀星のエリクサーブラッドを取り込むことに必死になっている。とも言える。
「あとはこっちも入れておこうか」
もとからあった白の世界樹にもエリクサーブラッドを注ぎ込む。
どちらも光沢が出てかなりキラキラしている。
「さて、後は慣れるまで世話していきますか……」
長期間空けても大丈夫になるのはある程度育ってからだ。
そのあたりは町を作るシミュレーションゲームと大差ない。
そこからも続けていって、二つの世界樹は同じ高さになった。
高さはだいたい五メートルくらいだ。もうこれ以上高くはならないだろう。
「さて、世界樹もあることだし、今日は寝るか」
エリクサーブラッドを持つ秀星は、圧倒的な体力供給とリフレッシュ効果が働くため睡眠の必要がない。
なので、秀星にとって睡眠は嗜好の一つである。
アロマセラピーという言葉があるように、植物にはそのあたりのいい効果があるのだ。
★
白の世界樹から、ひょこっと顔を出す存在がいた。
白く長い髪と、真っ白のワンピースを着た幼女である。
白の幼女は黒の世界樹の方に行って、謎の舞をした。
すると、黒の世界樹の影から、ひょこっと黒の幼女が顔を出した。
白は元気一杯の表情なのに対して、黒はまだボーッとしている。
白は黒の手を引いて、ふわっと浮き上がった。
目指すのは、ご主人様が寝ている部屋。
窓が開いているのでそこから入って、秀星に近づく。
すやすやと寝ている秀星。
白はもぞもぞと、秀星が寝ている布団に潜り込んで、秀星にギューッと抱きついた。
そして、あれっ?という表情を浮かべると、黒の方を見る。
まだボーッとしているようだ。
白は黒の手を引っ張って、布団に潜り込ませる。
すると、黒は自然と秀星に抱きついた。
白も笑顔で、秀星に抱きついた。
そして、二人は気持ち良さそうに眠った。
(う、うらやましい!)
そしてそんな二人を、ドアの影からチラチラとセフィアが見ていたようである。




