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第二百九十七話

「秀星。君は今回、話すべき人と話していない上に、別に会う必要はなかった者と接触している気がするのだが、それは気のせいか?」


 秀星と宗一郎は、飛行機で隣同士で座っていた。

 飛行機が空港に到着するのは真夜中なので、寝ているものも多い。

 そのため小声である。

 ちなみに、高所恐怖症のためガチガチになっていた雫だが、『寝てろ。その方が周りにとっても苦労しない』との助言を受けて、ガチガチになりながらも目を閉じて、三秒で熟睡した。意味のわからん神経である。


「どうだろうなぁ。俺は、今のままで十分だと思ってるけどな」

「そうか?」

「俺が見せた技術で、意識を変えることができたものは多いはずだ。あまりにも容赦がなく、そして、今まで自信になっていたものを覆すようなものを見せたんだから、そうなるのは当然っちゃ当然だけど」

「なるほど、あれだけで十分場を引っ掻き回したと言えるんだな」

「そんな感じだな」


 良樹がパソコンをいじりながら『いくら自分たちに才能があろうと、それが技術化されたら、その時点で才能しかなかったものは不要になる』と言っていた。

 もともと、人は様々な道具を作る生き物だ。

 技術化という言葉をわかりやすい例えとして出せば、それは道具を作ることである。

 だからこそ、良樹は今以上の努力をして、それまでの自分の実力が技術的に再現可能になったとしても、自分に価値が残るように頑張っている。


「もともと、『普遍的な技術の効率化』なんてものは、誰もが考えてることだからな」

「なるほど、言い換えるなら『最新式』というものはわかりやすい例だな」


 もちろん、秀星はこの世で最も優れた技術を持っているのは『人間の手』だと思っている。

 だがそれでも、日常に含まれるそれらをストレスなくするために、道具が作られる。

 魔法も所詮、人間が使う道具に過ぎない。ということを考えると、良樹の考え方は正しい。


「根本的……いやまあ、もっと深い部分もまだ残ってるけど、それでも重要な部分は教えた。これで、今あるものがどんなふうに統合されていくのか、俺は楽しみだよ」

「だな、効率化されるということは、『割り当てていたリソースが減る』ということでもある。今まで一つしか入らなかったものが二つになっていき……みたいなことになれば、一つの魔法具に数種類の魔法を封じ込めることも可能になるだろう」


 宗一郎が言った最たるものが、秀星が持っている『オールマジック・タブレット』である。


「だな。統合されると便利だもんな」

「私はスマホを手に入れる前はそろばんを使っていたが、今では新しいものは買ってない」

「ふーん……ん?電卓じゃないの?」

「そろばんだ」


 真顔で話す宗一郎を見て、秀星はもう考えないことにした。

 ちょっと踏み込んではならない領域に立っているような気がしたからである。


「で、秀星としては、今のままで十分というわけか」

「まあそんなところだ」

「ただ、才能でしかどうにもならないと考えられているものが技術化される……道具を使うのは才能があるものも同じだ。最初から才能があるものが有利であることに変わりはないと思うが」

「それは数年単位の話だな。数十年という単位になるとわからんけど」

「私達には関係ない話か」

「名門っていうか名家っていうか、才能で補助金を手に入れて暮らしている人からすれば悪夢だが、俺達みたいな一般ピーポーなら関係はないな」


 神器すらも解析してしまう時代がいつか来るかもしれない。

 秀星としてはそれもまた一興だが。


「私達は一般ピーポーなのか?」

「……」


 秀星は宗一郎と目を合わせることはできなかった。


「まあ、いいじゃん。俺はこれからの結果を楽しみにするだけだ」

「それは私も同感だ」


 お互いにネタが尽きたのか、そこからは雑談だった。


 ★


「久しぶりの我が家だなぁ。いつでも帰ってこられるけど帰ってきてなかったらいろいろと……ん?なあセフィア。なんで家の庭に、『白の世界樹』があるのか教えてくれない?」


 FTRのボスから言われた『FTRに構っていられるほど暇ではなくなる原因』が、そこにはあった。

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