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第二百九十四話

 『会う』ことと『集まる』ことはまるで別物である。

 情報社会なので、ぶっちゃけネット上であればいくらでも会えるのだが、実際に会って話をするとなるとかなり面倒だ。

 時間の都合もそうだが、そこに集まるまでにどのような準備をしていけばいいのかを考えて、実際に準備し、そして交通機関なども手配する必要がある。


 いろいろと準備が必要なのだ。女性なら化粧だとかメイクだとか、服を選んだりとかいろいろあるのだから尚更だろう。急に決まったものではないのであればとりあえず場と状況にあったスーツを着ていけばどうにかなる男とは違う。別に男の方だって面倒な部分はたくさんある。


 普段から忙しかったり、重要な案件を抱えていることが多い五人。

 五人全員で集まるにしても、集まっていない時間の殆どは自分の本業を務めるために使っているくらいだ。


 そんな中、秀星のような転移魔法まで使えてフットワークが軽く、大体の依頼をこなせる人間は便利である。


 ★


「ド畜生があああああ!」


 というわけで相変わらず秀星はダンジョンで叫んでいた。

 ちなみにかなり深い階層であり。ところどころ溶岩が急に吹き出すフロアである。

 それに応じて、気温は五十度を軽く超えるほど高いが、秀星が不快感を感じている様子はない。

 もちろん、エリクサーブラッドのお陰である。

 まあもともと、エリクサーブラッドがあれば王水の海だろうと泳げるのだ。五十度の気温程度、朝飯前である。

 なので秀星が叫んでいるのは、暑さのせいではない。


「うるさいぞ秀星」

「お兄ちゃん。最近カルシウムが足りていませんね」


 適当に溶岩を身に纏ったゴーレムを素手でぶん殴る基樹と、燃え盛る剣を奮って敵を両断する美奈。

 基樹に関して言えばもう放っておいていいが、美奈が無事なのは、燃え盛る剣に『美奈にとって害のある熱』がすべて集約されているからだ。


「だって、取りに行くの面倒だからって俺に押し付けて来たんだぞ。『取ってきてくれたら最高会議から提供できる範囲でいろいろ特権をあげるよ』なんていってたけど、実際に内約を盗み聞きしたら大したもんじゃなかったし」

「でも来てるんだよね」

「あいつら、俺が暇だってことわかってるんだよな……」


 アルテマセンスによってもたらされる才能は素晴らしいものだ。

 一度に百や二百を超えるアニメを見て理解することだってできるし、そしてそのすべてを記憶できるほどだ。

 なので、サブカルチャーに関して言えば慢性的に数が足りないし、二度目を見ることもない。

 結果的にめちゃくちゃ暇なのである。


「だったらさっさと片付けて帰るぞ。折角のデートコースをお前に邪魔されたらたまらんからな」

「……いうか、こんな場所をデートコースに指定する神経が意味不明なんだが」

「誰にもバレませんからね」


 当然である。

 というか一体誰が来たがるのだろうか。

 ただこれ以上突っ込むと盛大にブーメランになって帰ってくるのでおいておくことにしよう。


「ていうか、こんな場所をデートコースにしようとか言い出したのはどっちだ」

「俺だ」


 異世界でもデートコースは溶岩吹き出る場所だったのだろうか。

 だとしたら部下が心配である。


「何を考えているのかわかるが、行ったとしても週一だぞ。そんなところ」

「十分多いと思うぞ」


 秀星は舌が燃えているトカゲを蹴り飛ばしながらそう言った。


「まあ、デートコースの話はいい。それにしても、こんな場所にあるものが必要になってるって……どういうことだ?」

「FTRが攻めてきたときにあいつらが使ってた甲冑があるだろ?」

「ああ。あったな」

「あれの緑色のパイプの中にあった素材が全然燃えないから、高温の物質が欲しかったみたいだ」

「しっかり研究してるんだな」

「ああ、正直意外だった」

「兄と彼氏が揃って失礼ですねぇ」


 美奈が燃え上がっているマンモスをぶったぎりながらそういった。


「さて、必要な素材はそろそろ集まったな」

「なるほど、さっさと帰れ」

「どこまで不機嫌なんだお前は……」

「お前彼女いたことないだろ」

「あるわけねえな」

「なら説明しても理解できないさ」


 フッと笑う基樹。

 秀星は放置することにした。


「そういえば美奈。来夏に剣の精鋭に入らないかって誘われたみたいだな」

「前向きに検討中ですよ。うへへへへへ」


 恍惚とした表情の美奈。

 ハード目のレズビアンにも目覚めつつあるかもしれない。

 兄として心配である。


「基樹も?」

「俺も前向きに考えてる。というより、あのゴリラの体の構造が気になる」

「だよな」

「着たらゴリラで脱いだらモデルっていうのが意味わからんからな」

「……」

「覗いたわけじゃない。アイツは男湯にも突入してくるだけだ」


 なるほど。


「しかも違和感ない」


 それはそれでどうなのだろうか。


「まあ、チームに入るっていうのならこれからも頑張ろうな」

「だな……ただなんだろうな。俺もお前もいるのに、来夏がリーダーなのに違和感があんまりないんだが……気のせいか?」

「困ったときはな……」

「?」

「幽霊のせいにでもしておけ」


 怪訝な表情の二人。


 そして……エインズワース王国の国王執務室。

 ブルーライトカットのメガネをかけてパソコンに向かうアースーのそばで、アーロンは『なんか理不尽なことを言われた気がする』とつぶやくのだった。

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