第二百九十二話
会議は普通に終わった。
というより、秀星は発言権はあっても決定権がないのだから、ちゃんと話を聞いて、言葉を選んで話せばいいのだ。
変に取り繕ってもわかるやつばかり座っているので、これはそういうものである。
何かを根底から覆すようなことを言わない限り、会議は普通に進むのだ。
言葉を選ぶ。というのはそういうことである。
「いろいろと説明されましたが、本来の目的は別でしょうね」
「だろうな」
学生寮の秀星の部屋。
そこで、秀星はセフィアが作った洋菓子を食べていた。
「まあなんていうか、時代っていうのは動くからな。そろそろ新しい前例でも作っておきたかったんだろ」
「本来、あのような会議に出てまで説明する意味はありません。『いずれにせよ本命は別の場で話す』ということはわかりきっていることですから」
というより、人は観客がいたり、記録に残りそうなことであるとわかった場合、少なからず取り繕うものである。
言い換えるなら保身に走るのだが、これをバレないように言葉を選ぶのがプロである。
人に見える会議というのは、話してもいい内容がある程度議論された後で行われるものだ。
でなければ機密という言葉の価値が暴落する。
「外部の人間であっても、あんな感じの人から見える会議に出席することができて、身分とかに関係なく自由な言葉と態度で発言できる。ただし、決定権は与えない。こんなところか」
「間違いないでしょう。そして、前例としては十分です」
「……まあ、俺の立ち位置って微妙なんだよな。『剣の精鋭』のメンバーってことと、単なる高校生っていう肩書きしか持ってないけど、呆れるほど強い。みたいな感じだろ?」
「そうですね。実力を担保にして交渉はできても、それ以上に踏み込む権限は何もない。というものでしょう。書類上でも、『剣の精鋭』のリーダーは来夏様、サブリーダーはアレシア様ですから」
ふと思ったことがある秀星。
「思ったんだが、エインズワース王国って、魔石の最大の輸出国なんだよな」
「そうですね。実際に交渉する場合、日本の中では最高会議の五人の誰かが席に座るほど『大手』です」
「そんな国の王女がサブリーダーなのか……イロイロと融通が利く場面があるけど絶対に関係してるよな」
「当然です。肩書きというのは、自分と他人をもっとも勘違いさせる力ですから」
「違いない」
他人だけではない。自分も、というところが重要である。
「えーと、なんの話してたっけ」
「秀星様の肩書きがそうでもないという話でしたね」
「要点まとめて聞くと悲しすぎるんだけど」
「事実でしょう。そして、これ以上の地位など求めていないこともまた事実ですね」
「だな」
秀星は頷く。
「……もうこの学校にいられる時間は少ないが、どんな終着点にするべきなのかなぁ」
いろいろな人とあったりしているが、色々と会いすぎてごちゃっとしている。
もちろん、専用の交通機関を使えばいつでも会えるのだが、それはちょっとめんどくさい。
「まあ、悩みは自分で解決できそうなやつばっかりだから、ごちゃっとしたままでもあんまり問題ないか」
「そうですね。秀星様の出る幕はありません」
「……なあセフィア。俺なんか悪いことした?」
「いえ、これがデフォです」
そんなデフォ嫌だ。
「まっ、一個ずつ片付けるしかないか」
秀星は羊羹を頬張った。
★
さて、その頃……。
「なあ、美奈、基樹、天理、お前ら、『剣の精鋭』に入らねえか?」
秀星の妹と元魔王と元勇者を、頭のネジが吹っ飛んだゴリラが誘っていた。




