第二百九十一話
意思力。という概念をどう取り扱うか。
ということの前に、最高会議がどのような終着点を求めているのか。ということの説明をしておこう。
全貌、とは行かずとも、ほとんどわかっているものは良い。
それが普及し、発展することで、どんなメリットやデメリットがあるのかわかるからだ。
デメリットが大きくとも、それを上回るメリットがあって、最高会議が支えればいいと判断すれば、最高会議で研究を進めることでデメリットを周りに伝えやすくなる。
当然、メリットが少なく、デメリットが大きければ規制。専用の研究機関を設けることはするが、外に広めることは当然禁止である。
最高会議の五人は、普段は立っている場所が別である。
そのため、多くの見解が混じり合うのだが、それでも『全貌がほとんど見えない』ものは初めてなのだ。
技術というものは、何かを基準に生まれるもの。
だが、意思力という概念はかなり新しい概念である。
全貌が見えない。と言ったのはそういう理由もある。
だが、自分たちよりも何かを知っていて、人格も問題なく、五人の人脈的にも呼ぶのに苦労しない。という条件が揃った秀星がいる。
本来は周りが納得できる用心棒扱いで呼んだのだが、こうしていろいろと条件が揃っているのだから、あくまでも発言権を与えるだけで投票権を与えない。という条件で呼べばいい。
そんな意図で秀星を呼んだわけだ。
別に最高会議の五人にしても、基本的には利権だとかそういうものはなく、あくまでも義務感で動いている。
利権はたしかに大きいが、元から大きなものを持っている人間が集まっている。
理性が強い五人なので、別に今以上の地位などいらないし、そもそも、内側で何かが爆発していそうな箱の管理などめんどいのなんのって……。
最高会議を潰そうと考えているものは多いが、その最高会議の地位に就きたいと思うものはあまりいないのだが、これはそういうことだ。
引き継いだとしても面倒なのである。
新しいものが現れすぎるのだ。
現代に存在する四割を制御できれば上質。と呼ばれるのが、魔戦士社会の運営システムである。
当然、秀星だってそんなものいらないのだ。
いらないのだから、『最高会議と同じ目線で話す』ならまだしも、『発言権を得る』などというのが言語道断なのだ。
ちなみに、最高会議の五人にとって一番面白くないのは、すでにそれらの事情を、説明するまでもなく秀星が理解している。ということである。
楽でいいが、面白くない。
と思うが、自分たちもそんな感じか。と思ってしまうあたり、統治するというのはなかなか骨の折れる作業である。
「意思力。簡単に言えば、物体のパーツごとに同密度で魔力を注入し、『統合体』を作成。効率的なことを自分で理解して選択できる『モンスター』を生み出す。という認識だったね」
アトムの確認に全員が頷いた。
それは秀星も同様である。
「これが研究された場合、どんなメリット、デメリットがあるのか。これを議論したい。が、私達五人の中では既に話し合っていてね。秀星。私達の意見を聞いた上で、君の意見を聞きたい」
「わかった」
資料が置かれているが、秀星が座る場所に置かれていた物には『意思力』に関する考察はなかった。
もとから先入観を与えないためだろう。
「まず結論から言えば、研究するべきだ。ただし普及はしない。というものだね」
秀星が考える前に、観客席にいる人たちが驚いているようだったが、秀星は無視した。
「終着点としては間違っていないな。普及させるのは確かにやめておいたほうがいいだろう」
「同意する理由はあるかい?」
「……一言で片付けていいか?」
「もちろん」
「軍事兵器をモンスター化できる」
秀星の発言に、客席に座っている人たちが息を呑んだ。
あくまでも戦闘能力として意思力を見ると、そういうことなのだ。
厳密には、足でもタイヤでもなんでもいいので、自立して動けるというのなら、それだけで驚異になる。
「『最善を選び続ける軍事兵器』という概念が、『意思力』というものを使うだけで可能になる。これはそういうことなんだよ」
「ふむ……なるほど、デメリットはわかった。ならば、メリットはあるかい?」
「その『軍事兵器型モンスター』だが、作れるようになるとしても最高会議クラスじゃないとほぼ無理だろうし、技術を独占できれば、それはそのまま戦力になるってことだな。奪われたら悲惨だが」
「そうだね」
「あとは、研究道具に用いることだな」
「どういうことかな?」
「ピペットだとか顕微鏡だとか、そういった器具の話だ。実験に必要なのは、『正確な操作を行う手段』と『正確な観測を行う手段』だ。自分で最善を選ぶ実験器具を開発できれば、大幅に時間短縮ができるだろ。顕微鏡はさすがにハードだが、ピペットくらいなら作れるだろうし」
「なるほど。言いたいことはわかった」
ここまで言えば、全員がそれぞれ答えを出すだろう。
そして、結局のところ、研究はするが普及はしない。という方針は変わらないままだった。
秀星が見る限り、意思力が存在する商品は販売していいが、技術そのものは独占。ということになった。
ちなみに、魔力にはプラスの状態とマイナスの状態があり、プラスの状態でしか現実には影響できない。ということをこの学校に来てすぐに説明した。
これを前提にして、『魔力の体積と重量を強制的にプラスからマイナスにする』技術を使えば、どれもこれも普通に戻る。というのは等しく変わらない。
まだ『意思力』という概念は、いうほど真理に近くはないのだ。




