第二百九十話
アトム、聡子、修、蓮、聡明。
最高会議という、日本における魔法社会を決めている五人といっても過言ではない。
彼らのうちの過半数が賛成を取れば、その議題は可決するという話もある。
なお、圧倒的な戦闘力や財力、政治力において鬼才レベルが集まっているので、他の魔戦士に対してそれを強制するだけの力も当然ある。
彼らに反抗することそのものは別に禁止されているわけではない。
何事も例外は存在する。
だが、その例外というものが、『個人』の話なのか、『時代の流れ』によって生まれたものなのか、議題に出た段階ではわからないものがある。
どんなに小さなことであっても、必ず『暫定』を決める。ということだ。
なお、魔戦士社会の常識……というより、全体を相対的に見た平均という意味で考えるなら、システムに対して例外要素が大きいのは最高会議の五人たち本人だったりするのだが、それはおいておこう。
(すでに揃ってるな。あと、観客席にもそれなりに人がいる)
部屋に入った秀星はそう呟いた。
テーブルにはすでに資料らしきものがあるが、五人だけで話すのなら必ず必要のないもの、マイクがテーブルに存在する。
至るところにスピーカーがあるのだろう。
ただ、気になるところがある。
「なあアトム。あれってなんだ?」
秀星は指差しながら言った。
その先にあるのは、多くのカメラが設置された空間だ。
ただし、そこには何もない。
「簡易的な実験を行うときに使う場所だよ。何かあれば使ってくれ」
「……」
なんとなく展開が読めてきた秀星。
円卓では、普段は五つだが、同じものを6つ目として用意したであろう新しい椅子があった。
「さて、君の席はここだ。資料を読みながら会議に参加してくれ」
「散々苦労をかけた意趣返しかよ……」
ため息を吐きながら秀星は席に座った。
そして、資料は見ずに『鑑定』する。
それだけで、すべての内容と、それを要約したものを頭に入れた。
はっきり言って反則である。
「フフフ。なかなかやりますね」
微笑みながらこちらを見ている聡子。
とても楽しそうな表情である。
その隣に座る諸星聡明は思いっきり苦虫を噛み潰したような表情になっている。
この嫌がらせを考えたのは彼なのだろう。
蓮の『ほらいわんこっちゃない』という表情で、すべてを察した。
「さて、それでは会議を始めようか」
アトムが着席するとともにそう言った。
お互いにお互いのことを知っているので、自己紹介もいらない。
そもそも秀星を呼んだのは彼らで、その理由も察しているので聞く必要がない。
そして、この五人に対して秀星が臆するということもない。
あと、実はこう見えて時間が惜しい。
そういうこともあって、なんの事前説明もなく、『前回の会議の続き』から始まる。
あまりにも予想外な入りだったのか、表情を歪めるものも多かったが、この会議の客席とはいえ座れるほどの地位についていると考えると、ある程度変態慣れしているのがほとんどである。
中には納得できなさそうな表情で秀星を睨んでいるものもいるが、多くのものはため息とともに諦めた。
そんな感じ会議が進むが、六人だと偶数であり、半分で分かれると決まらない。
さらに言えば、秀星この会議に出席するのが初めてで、そもそも雰囲気すらつかめていない。
というわけなので、彼らと対等に話す権利はあっても、投票権は持っていない。
これに関しては秀星も納得した。
自分がいなければ決まらない会議など面倒である。というのが本音だったりするが、納得しているのは事実である。
「さて、今回で一番重要な案件だが、『意思力』という概念だが、どう扱うべきだろうか」
アトムがそう言うと、場の雰囲気が変わった。
というより、どれほど説明されても、全貌が見えないものがほとんどである。
酷いところでは、『あれはそんな大層なものではなく、巧妙な魔法だ』というものは多い。
だがしかし、それは単なる思考停止だ。
第一、観察力や鑑定力、観測力という意味で、秀星すら立てない領域はある。知ったあとで研究すれば別かもしれないが、それはそれとして。
場の雰囲気が変わったし、しかも、『どう扱うべきか』という、暫定がまるで見えない言い方。
はっきり言って不気味である。
(さーて、ここからが本番だな)
秀星はそう思いながら、資料をチラッと見ていた。




