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第二百八十八話

 最高会議の五人が長期間集まることはほとんどない。

 もちろん、そこが狙い目だと考えている愚かな連中もいる訳だが、何をどう頑張っても秀星が対応してしまってどうにもならないので、結果的にあきらめざるを得ない。

 ちなみに、秀星にも面倒だと思うことはあるわけで、あまりにも下っ端見たいなのが来た場合はセフィア任せである。

 それでもだめなら、上の戦力を使えばいいのだ。

 そして忘れてはならないのは、決して戦闘にリソースを振っていないセフィアですら、敵の主力を倒せるくらいの実力があるということだ。しかも大量に出せる。


 ここまで理不尽なことをいくつも言えば、『ちょっかいかけてみよう』と思う連中もいなくなるものである。


 あと、これが決定的なのだが……。

 確かに最高会議の五人は、本人が強いうえに強いメンバーがそろっている。

 それを倒すことは、確かにすごいことであり、偉業である。

 だが、それをした後のことはどうなるのか。と言うことだ。

 変革を望むのは構わないが、まず、この五人に勝つという難易度が高すぎて、その先に思考が向かないものがほとんどである。

 戦闘力だけならまだしも、指揮能力も高い。

 そんな五人を倒したとして、その先をどうするつもりなのか。ということだ。


 この五人としては、魔戦士社会と言うのは『革新』よりも『保守』だ。

 しかし、この『保守』というものを『全く変わらない』と勘違いしているものが多い。

 『保守』というのは、人間はできることに限りがあるからゆっくりやって行こう。というものなのであって、現状が全く変わらないのではない。

 そもそも、変化しないということそのものがあり得ないことである。

 そのため、『全く変わらない』ということは社会に対する『反抗』である。


 そしてそれは、多くの者が武力を持つ魔戦士社会において、上のものが下のものに強制させることが出来ることを示さなければ続かないものだ。

 革新主義の人間が暴走しないようにすることも必要である。

 そもそも、『自由主義』というのは雇う方が得をするだけのシステム。

 現代を生きる人間は、『福祉』というものが、その『膨れ上がった資本主義の末』に生まれた概念だということを知らないものだ。貧富の差が拡大することを『自由主義』は当然のこととして考える。


 それを抑えるために、『最高会議』はそういった思想を排除し、まだ彼らが求めているほど育っていない魔法社会を安定して成長させるためのシステムを維持しようと務めている。


 ★


「なるほどな。『度を超えた自由主義』を撤廃し、『福祉』の方を現在は優先。そうすることで、『平均的な戦闘力』を全魔戦士の中で上げようってシステムなのか」

「まあ、大まかに言えばそんなシステムだな。で、秀星はどう思う?」


 秀星は来夏と基樹と話している。

 まだ会議に呼ばれる時間ではない。

 その前に、最高会議に出席するものの親族である来夏と話しておこうと考えたからだ。


「ふむ……なるほどな。この地球での魔戦士社会を調べてみたが、多くの場合、『個人』か『家族』の単位で活動しているものがほとんどだった。だが、『システムに乗っかる』ならまだしも、『個人』や『家族』は別に強くはないからな」


 家族と言うものが絶対的なシステムだと考えているものは多いが、そんなことはない。

 元は強く、現代になって弱くなってきたのではない。元から弱いのである。

 それを支える付与価値やシステムがあるというだけだ。


「ただ疑問に思うのは……『最高会議』は民営だよな」

「形式上はな」

「何故民営組織がそんなことをしている?」


 基樹が秀星に聞いて来る。

 秀星は少し考えて、ひらめいた。


「……ああ、基樹が言っているのは、『画一的なのが行政』で、『多様的なのが民間』なのに、なんで『福祉』という『画一的』が優先されることを『民間』がやってるのかって聞きたいんだな」

「そういうことだ」


 国民が払う税金で動く『行政』と言う組織は、変化する際は国民からの投票……少なくとも過半数から賛成を得られないとほぼ無理な話である。

 勝手に変化したり、『あの人にはこのサービスがあるのに自分にはないのか』みたいなことになったらそれは単なる『不平等』だからだ。

 そのため、お役所が融通が利かないと言っている人は多いが、元からそれはそういうシステムである。

 そもそも、『画一的の絶頂期』であった『高度経済成長期』で滞りなく運営するために作られたシステムなのだから、なかなか変化しないのは当然。

 ……ちなみに、若い人は政府に変わるように言うわりに選挙には行かないのだから矛盾しているものだ。


「そもそも『最高会議』と言うシステムが、『行政』から分離してできた組織だっていうことも強いだろうな……基樹は『日本的雇用慣行』って知ってるか?」

「初耳だ」

「『終身雇用』と『年功序列』と『企業別組合』だぜ」


 来夏が説明。


「……最初以外わからん」

「『年功序列』は、『どれほど長い時間働いたか』で賃金が多くなるということだ」

「社会貢献が薄く、年だけ食った老人に発言権はないということだぜ」

「来夏。ぶっ飛んだこと言いすぎだろ」

「だってそうだろ」


 基樹はフム、と頷いた。


「で、『企業別組合』というのは?」

「言いかえるなら『企業福祉』かな。今は両親共働きのところが多いけど、昔は『男は仕事』で『女は家事』って感じだったから、『男の賃金』を、『男』じゃなくて『家族』に対して与えるから多くするとか、子供が生まれた時に、その養育費の補填として賃金が上がるとか、そんな感じだ」

「なるほど」


 基樹が意味を理解したようだ。


「で、その『日本的雇用慣行』がどうした?」

「『最高会議』っていうのは、その『日本的雇用慣行』を軸にして、丁度良く実力主義を取り入れようっていう組織なんだ」

「そもそも、モンスターや犯罪者を相手にする必要があるから、『実力主義』を抜くことはできねえからな」


 基樹が頷き、そして首をかしげる。


「……俺は日本を観光したことがあるんだが……」

「どうした?」

「その時、色々なニュースを見たが、日本人にとって『実力主義』は、その『日本的雇用慣行』を軸にして、『実力主義』がプラスアルファだと考えていないか?」

「……基樹は、『実力主義』に『日本的雇用慣行』なんて不要なんだから、軸にしてる考えがおかしいってことを言いたいんだな」

「そうだ。第一、『実力主義』は経費を削減したい企業がやりたがっている方針だろ。なら、雇う方が有利になるシステムだということは避けられないと思うが……」

「……基樹」

「なんだ?」

「かなり闇に沈み込んでるからちょっと浮上しようか」


 秀星のその言い分に苦笑する基樹。


「わかった。そして、『最高会議』と言うシステムも理解した。その上で言うが……かなりむちゃくちゃだな」

「当然、近年にできたシステムだ。出来たのは八年前みたいだな。メンバーは変わってないみたいだぜ」

「ほう……ん?この学校の生徒会長、十歳で参加してたのか?」

「そうだぜ」

「……保守的と言うその理念、返上してほしいものだな」


 基樹のその言葉に、秀星と来夏は笑った。

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