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第二百八十六話

 沙耶がたくらんだことにより、何故か比較的すぐに入ることができるようになった秀星。

 別にそれそのものは悪いわけではない。なんだが沙耶に変なものを食わされているような気分ではあるが、悪いわけではない。


「さて、俺が入ったらどうなるんだか……」


 何度も言うが、初日にセフィアの端末を送りこんで情報収集は済ませている。

 なので、雰囲気はなんとなく分かっているし、『これをされると困る』と言うことは分かっている。

 それに加えて、『出来たばかりのメイド喫茶』というものを経験しているオタクは何人かいるので、そういった人たちの言動をどうにかして真似すれば致命的なことにはならない。


「行くか」


 『70番の御主人さま。どうぞ~』というプレートを両手で持って振っている沙耶を見て微妙な空気を感じながら、秀星は店内に入る。


「おかえりなさいませ。ご主人様!」


 ……秀星は思った。

 現在、秀星は身の危険を察知するためのセンサー以外のほとんどを切っており、感覚神経のほとんどを一般人レベルまで下げている。

 そのため、店の外から店内の様子が分からなかった。

 その方が秀星としても楽しいと考えていたので、それはいいとしよう。

 ただ……。


(まさか妹に言われる日が来るとは)


 秀星に対して定番のセリフを裏表のない笑顔で言うのは美奈であった。


「あ、お兄ちゃん!」

(しかも素に戻るの速いな)


 ただし、気まずいとは思っていないようだ。

 基本的に純粋なのでそうなるのだろう。

 強いというより鈍い妹である。


 そのまま席に案内される秀星。

 テーブルには全員のメイド服姿の集合写真が立てかけられている。

 ……写真を取る段階ではまだ慣れていなかったのか、羽計だけはちょっとぎこちない。

 そして、客によってはそれがまたいいというものもいる。

 とはいえ、剣の精鋭メンバーは、文字通りの少数精鋭。

 みんなくっそ強いので手を出すことはしないが、それでも、制裁を受けることを覚悟した上でセクハラするものもいる。人の根源的な欲望は性欲である。

 ちなみに、小学五年生の美咲に手を出したものもいたが、美咲も実はこの学校の中では強者の分類に属するので、当然失敗。だけならいいのだが、そのセクハラしようとしたやつがロリコン認定されたことは言うまでもない。


(『コース料理で全員登場!』とか書かれてるが、ワンセット三十分。だったな)


 美咲、優奈、羽計、アレシア、雫、風香、エイミー、美奈の八人。


(これって八品来るってことか?まあ量は少ないだろうけど、一品三分ちょっとだぞ。間に合わなかったらどうするんだ?)


 ちなみにすぐそばに『チャレンジメニューですよ!』と美奈が書いたような文字で書かれている。

 ちなみになぜチャレンジメニューなのかもしっかり記載されている。


(無理だと思う人は無難にやれっていってないかこれ)


 秀星はなんとなくそんなことを思ったが、せっかくである。

 秀星はチャレンジメニューを注文することにした。

 周りから『おお〜』みたいな声が聞こえる。


 ……そこからは、文字通り全員から順番に接待された。


 美咲 いつもどおりのです口調で可愛らしい。

 優奈 意外となれた雰囲気だった。

 羽計 慣れてきたくらいでまだ顔は赤い。

 アレシア さすが王女。本物のメイドを見ている分クオリティ高い。

 雫  もうちょっと自重しろ。

 風香 ……無難。

 エイミー 羽計以上に慣れてなかった。可愛いですね。

 美奈 なんていうか……すごく、頑張っていた。


 それぞれの対応を簡単に述べるとすればこんな感じになる。

 羽計とエイミーが慣れていなかったが、二人はタイプが異なるので飽きるということはなかった。


「そろそろ時間制限だな」


 急いで食べてもギリギリである。そしてそれが当たり前である。

 店を出ると、体を伸ばす秀星。

 意外と疲れた。


「おや、君はこういうところにも来るようだね」

「……アトム。なんでお前がここにいるんだ?」


 店を出た秀星に話しかけてきたのはアトムだった。


「フフフ」


 アトムは整理券を見せてくる。

 そこには『75』と書かれていた。


「……アトムも男だなぁ」

「当たり前だ。ちなみに、聡子も来ているよ」

「ああ、あのママさんね」


 かなり人気のようだ。

 まあ、顔面偏差値は高いのでそうなるのもある意味必然だが。


「しかし……あれだね。なんというか、整理券を渡しているあの子が、ある意味このメイド喫茶を取り仕切っているような、そんな気が私はするのだが」

「そうか」

「ちなみに私が取りに行ったらわらわれたよ」

「俺もだ」


 意外と賢いというか、あの年齢にしては知性を感じる。

 来夏の遺伝子の影響なのだろうか。わけがわからないが。


「それと、この文化祭が終わって一段落ついたら、会議に出席してほしい」

「……」


 秀星は思考速度をもとに戻してから、こういった。


「別にいいけど、俺はタブーなんて知らねえぞ」

「問題ない。君にルールを与えたところで、席に座ることには抜け道を考えられるだけだ。ならば、フリーハンドを与えたほうがいい」


 その決め顔のまま、アトムはメイド喫茶に入っていった。


(そこって、あの顔のままで入るようなところじゃないだろ)


 秀星はそう思ったが、すでにアトムは店の中。

 すでに遅い。


(しかし、俺が会議にねぇ)


 会議に出てほしい。フリーハンドを与える。と言っている以上、実際に発言が可能な席に座るのだろう。

 ただし、ここまで一切会議に出ていない秀星は、話の終着点が他のメンバーとは大きく異なる。


「……断る理由はないが、厄介な話だな」


 秀星はそう言うと、その場をあとにした。

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