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第二百八十五話

 さて、剣の精鋭メンバー+美奈は『メイド喫茶』をやっている訳だが、実を言えば、秀星にも客として来てほしいとは考えている。

 あくまでも乗り気かどうかはともかく反応が見たいと言うものだが。

 文化祭も三日目。

 ある程度なれるのが早いメンバーがそろっているし、対応できるだろう。

 というわけで来てほしいわけだが、なかなか来ない。とうっすら思い始めていた。


 とはいえ、秀星は別に『メイド喫茶』と言うものに特別興味はない。

 だって普段からすぐそばに自分好みのルックスとスタイルのメイドがいるのだから。

 オマケに、メイド喫茶のような改造メイド程度、セフィアの端末だって着るのだ。

 ただし『最高端末』に改造メイド服を送りつけようとすると白い目で見られるうえに、本人にギリギリ理解できるように考えられた間接的な嫌がらせをしてくるのでやらない方がいい。

 というより、女性の平均身長としては若干高く、他の端末と比べて圧倒的に『清楚オーラ』が漂う最高端末は、あまり改造メイド服が似会わない。一度着せたことはあるがいまいちだったので(頭が緩そうなメイドの演技申請も断固拒否された)、結果的にそこから着せたことはない。

 ……とはいえ、夜になって一緒にベッドに入ったらそれはそれで口では言えないことになるが。

 

「さーて、ちょっと行ってみるか」


 ごちゃごちゃと考えていた秀星。

 結局メイド喫茶には行くのである。

 深い理由など一切存在しない。

 もちろん、セフィアの端末を送り込んでいたので中身などわかりきっている。

 しかし、秀星はセフィアの端末を入れたとしても全くわからないことはある。

 それは『自分が入ったらどうなるのか』ということだ。

 そういうわけで向かうわけである。

 セフィアは『たまには初々しいメイドを見るのも悪くはないのでは?』と言っていたが。


「で、ここか」


 限度を超えない程度にメイド喫茶感が出ている。全体的にピンクである。

 そして……。


「行列がない……ん!?」


 秀星は驚いた。

 確実に行列が長くなることがわかっていたからだろうか。整理券を配るシステムになっているようだ。

 それはいい。それはいいのだが……。


(なんでポチに乗った沙耶が配ってるんだ?)


 小虎形態のポチの背にまたがった沙耶が、ポーチに入れた整理券を配っているのだ。


(……そうだった。俺、この店のことは初日しか見てなかった)


 そのため、最新のシステムは知らない。

 が、いいのだろうか。

 まあいいのだろう。

 ここは大通りであり、沙耶は何かあったら騒ぎ出すだろうし、そうなったら流石に周りの人間もわかる。

 本店にはなくとも、周囲の人間という存在は一種のバリケードである。


(問題なのは、しっかりと受け答えができるのかってことなんだが……)


 赤ん坊が店頭に立っているのは、逃げる可能性も考えられるが致命的な判断とまでは行かないだろう。

 だが、正確な待ち時間とか、そういった質疑応答が存在するはず。

 赤ん坊である沙耶は確かに体力は凄まじいが、まだ言語能力は発達していない。


(たまに『ははうえ』っていうときあるけど。基本的にうーとかあーだからな)


 不可能である。


(あ、客きた。沙耶のところに行って整理券もらってる)


 整理券の番号には『162』と書かれている。

 秀星の目がおかしくなければ、沙耶がいる看板の前には『64』と書かれている。


(テーブル席の数は十六だったな。一組に対してワンセット三十分で延長はなし。一時間で三十二組となると……大体三時間待ちか)


 そりゃ並ぶんじゃなくて整理券を使うことになるだろうな。


「これってどれくらい待つんだ?」


 整理券を受け取った男子生徒がつぶやく。

 すると、ポチが反応して、『三時間』と書かれたプレートを引っ張り出す。


(ポチがわかってるのか)


 何か複雑な納得をした秀星。


「うえっ!?マジか。もうちょっと早くならねえの?」


 それに対してポチも『無理』と書かれたプレートを出した。


「はぁ、マジかぁ……どこで時間潰そっかなぁ」


 男子生徒はトボトボと離れていった。


「……沙耶ちゃん。俺にも一枚くれない?」


 秀星は沙耶に近づいて、整理券を貰うことに。


「……ブフッ!」

「おい、今笑ったよな。笑っただろ!」


 何考えてんだこの赤ちゃん。

 そしてポーチに手を突っ込んで、『70』と書かれた整理券を渡してくる。


「え、どういうこと?」


 沙耶ちゃんを見るが、別に不思議がっている様子はない。

 ただ一瞬だけ、瞳が金色になった気がした。


(……来夏の『悪魔の瞳』を限定的に使えると言っていたが……俺が来ることを予測していたのか?)


 確実にどこかで止めておいたほうがいい気がするDNAである。

 が、せっかく沙耶ちゃんが気を利かせたのだ。

 ありがたく使わせてもらうとしよう。

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