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第二百八十二話

 さて、夜である。

 特に記述することが無かったのでもう夜である。


「いやー……それにしても、あんなものが空中に待機しているなんて、世の中は不思議だな」

「……秀星様の存在の方がよほど不思議だと思いますが」

「俺を判断基準にするんじゃない」


 ジュピター・スクールの一番高い校舎の屋上でそんなことを話す秀星とセフィア。


「しかし……何があったのか、事情は分からんな」

「確かにそれは言えますね」


 黒いモヤも晴れてきて、その黒い何かの正体も分かるようになってきた。

 いや、秀星の中ではすでに答えは出ていたが、実際に見えるようになった。と言うべきか。

 空中で黒いモヤを発していた巨大な物体。

 それは、『超巨大な黒い大樹』だ。


「……なあ、あれってさ、『黒の世界樹』だよな」

「間違いありません」


 黒の世界樹。

 様々な色の世界樹が、一つの世界に何本か存在する。というルールが、今秀星がいる地球には存在する。

 十を超えない程度にそれらは存在し、『バランス』を保っている。


「単純にどけてもいいっていうのなら、基樹あたりが魔力で圧力を発生させて、このメイガスフロントに影響がない場所まで移動させて海に落っことすんだろうな。ていうか単純に破壊できるだろうし」

「その程度の出力なら可能でしょうね」

「とはいえ、それじゃあダメなんだよな。というか、それだとまた似たようなことになる」


 椅子に座っていた秀星は立ち上がる。

 そして、黒の世界樹に目をやると、セフィアは指をパチンと鳴らして、椅子も、テーブルも、その上に乗っていたお菓子とお茶を全て片づけた。

 あの黒の世界樹をどうにかした後、ここに戻ってこないことが分かっているからである。


「まあ、あれだな。確実に俺の『エリクサーブラッド』が目当てだろ。かなりヤバい状況が続いてこうなったみたいだし、どうにかしてやりますか」

「そうですね。黒の世界樹の繊細さは高く、私でも対処不可能ですから」


 秀星はマシニクルを右手に出現させると、銃口を左腕に当てる。

 すると、そこから血が抜かれていく。

 ただし、エリクサーブラッドと関係なく痛みはない。

 当然だが、痛くない注射器程度、マシニクルは持っている。

 まあそもそも、普通の注射器では、普通に血液をとることはできても、エリクサーブラッドをとることはできないのだが。


「行ってくるか」


 飛行魔法を使って飛びあがると、そのまま世界樹に突っ込んで行く。

 世界樹の方も、目当てである秀星がきたことで若干揺れた気がする。


「まあ、どうにかするって言っても、別にぶっ壊すわけじゃないさ。目当てなのはお前のコアだけだ」


 世界樹ともなればその周りにある枝や葉だけを見ても森に見えるほどだ。

 だが、秀星はそれには興味がない。

 世界樹のありとあらゆる意思が秀星に向いた瞬間、秀星は世界樹のコア付近に転移した。

 かなり弱った光を発する『次の種』が見える。

 これがコアだ。


「おりゃ!」


 秀星はマシニクルの銃口を向けると、エリクサーブラッドをコアに打ち込んだ。

 コアは大きく脈動し、その影響が周りに広がり始める。


「はいはいそれはダメ」


 ブレードを出して、種の周りにある植物を切り離していく。

 そして、種をゲット。


「なかなか影響力がありそうな感じだな。まあ、今の俺でもこればかりはどうしようもないからな……」


 今の秀星であっても、もしもこの種が失われたとしたら、過去に跳んで解決するしか方法がないと断言できるほどめんどくさいのだ。

 単純な植物ではなく、今まで多くのルールを構築し、バランスを取り、そしてかかわってきた『システムその物』である。

 神がいなくとも、この世界樹があればどうにでもなる。と断言してもいいものだ。

 さすがに秀星も作りだすのは無理である。


「さて、あとはこの残った木だが……再利用したいからこうしようか」


 秀星は『オールハンターの保存箱』を左手に出現させる。

 そして、その小さな箱を開いた。

 次の瞬間、残った木のすべてがその中に格納される。


「まだまだ利用価値はあるからな。さて、後はコイツ、何処で埋めるかなぁ……」

「秀星様のご自宅の庭でよろしいかと」


 何時の間にか上がってきていたセフィアがそうつぶやく。


「……まあ、管理は面倒なんだが、セフィアに任せていいか?」

「畏まりました」


 というわけで。

 世界樹。ゲットである。

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