第二百七十七話
勝人の発表で出てきた意思力。
なかなか画期的というか、秀星からすれば、かなりやる意義があると感じた。
モンスターの生態にかんしては、秀星も分かっていない部分がたくさんある。
『こんなことがあった』という経験から暫定をするし、事実だと後で証明できないことはほとんど言わないことにしているが、それでも、説明の為にいうことはあった。
勝人は、モンスターの体の構造を、モンスターを作ることで説明した。
もちろん、『工夫した魔力の入れ方』というのは、専用の機材がないとほぼ不可能なものだろう。
さらに言えば、技術の悪用を防ぐために、実際に魔力を入れる作業を見せることはなかった。
見せることができるラインというものは存在する。
それをよく考えていたと言っていい。
あのペン一本で、学術的な価値を図るとなれば恐ろしいものだろう。
秀星が見た限り、あのペンには『魔力的』な要素はあっても、『魔法的』な痕跡は見つからなかった。
このペンは正真正銘、魔物である。
(もう一つ謎が解けたな)
秀星は、『魔法も超能力もスキルも、広義的に変わりはない』と言っている。
これは事実だ。
そのため、『スキルとして魔物を作り出す』場合、どういったプロセスで実現しているのかが分かれば、それを『魔法』として再現できるということでもある。
だが、秀星にはわからなかった。
確かに、『オール・マジック・タブレット』を使えば、『魔物化・魔物生成』の魔法を使うことはできる。
しかし、その構造が理解できなかった。
アルテマセンスを持つ秀星ですら理解できなかった概念。
それを、勝人という研究者は解明してしまったのである。
(アルテマセンスが『天才』を作り出すとすれば、勝人は『鬼才』と言えるものだな)
何より、勝人からは神器を持っている感覚は感じられなかった。
本当の意味で、勝人は秀星やアトムたちと比べて普通の人間である。
だが、頭の中はそうではなかった。
「……なるほど、確かにそれは俺もわからなかったことだな」
その話を基樹にしてみたところ、そう言われた。
「元魔王でも、モンスターのことでわからない部分はあるんだな」
「当然だろ。秀星だって『人間ってなんだ?』って言われたらどう答えるつもりなんだ」
「それもそうか」
言われてみれば当然のことである。
「しかし、パーツごとに同じ密度で魔力を注入する、か……言われてみれば大したことじゃない」
「それに気がつけるって部分も凄まじいが、なんでわかるのかね?」
「おそらく、秀星が考えている『本質』と、勝人が考える『本質』は、ジャンルが異なるんだろうな。だから多分、勝人にわからないことが秀星にはわかるっていうことはあると思うぞ」
「そういうものか?」
「人間は『本質』だとか『根本』だとか、そういった言葉を使いたがるが、ぶっちゃけこだわっても意味はないと俺は思うがな。第一、すべてを解き明かすには、人間の寿命じゃ時間が足りない。どこかは切り捨てる必要があるし。別のジャンルの知識なんて、自分の研究が行き詰まった時にちょっと見るくらいがちょうどいいもんだ」
「人より長く生きてる元魔王が言うと説得力があるな」
「生きている。というよりは『存在していた』という方が正しいんだがな」
基樹は溜息を吐いた。
「で、あれはなんだ」
そういって上を指さす基樹。
秀星は見るまでもなく、上のほうにある大きなものであることに気が付いている。
「見えてたのか」
「隠ぺいされていなかったからな。まあ、黒い濃霧が周囲にあるから中身に関してはわからないが……わかっていて何もしないってことは、大丈夫なんだな?」
「そうだ」
「俺の予想が正しければ、時間がたてば落ちてくると思うんだが?」
「それも事実だ」
「なら、なぜ今すぐ片付けない?」
「基樹みたいに、すでにあれの存在を気にしてるものはそれなりにいる。もちろん、今すぐ対処することもできるが、見せたくない技術だってあるさ。それをするくらいなら、どうにかできる時間を狙うのは当然だろ」
「……言いたいことはわかった。なら、俺は何もしないぞ」
「ああ。そうしてくれ」
基樹はこの時点で、『秀星があまりかかわってほしくなさそうにしている』ということをなんとなく察していたが、解決できるというのならそれでいいと思うことにした。
秤に何を乗せるのかを知っているのは、乗せる本人だけなのである。
「……いろいろ気になることはあるが、ここでは聞かないでおく」
「助かる」
そんなわけで、一番勝手に動きそうで、そして実際に解決できそうな奴は止めた。
秀星は内心で微笑みながら、その黒い何かを見上げた。




