第二百七十一話
沖野宮高校の生徒たちは乗り気だった。
というより、『文化祭』というのだから楽しみたいし楽しませたいと言うのが本音である。
ただ、アレシアが説明し優奈が補足した『玉石混交の研究会が発表する場所』という言葉の通り、出し物はクラス単位ではなくそれぞれのグループ単位である。クラスでやってもいいがメインはグループ単位である。
出し物に関しては別に研究結果の発表でなくてもいいのだが、そのことをしっかり明記して書類を提出することが求められる程度で、あとは公序良俗を違反しない限り問題ない。
ジャンルごとに分けるとすれば、『研究型』と『サービス型』になる。
あとは、テントだったり簡易的な仕切りで作ったブースが、文字通りグラウンドを埋め尽くすのだ。
ちなみに、場所の取り合いは毎回苛烈を極めるらしい。
風紀委員程度では抑えきれないので、生徒会も出てくるそうだ。
ただし、予め『こんな出し物をしますので票をください!』みたいなアピールをすることは認められている。
認められる条件も学校ごとで異なり、票を集めることを認められていない学校もあるが、ジュピター・スクールでは、身長二メートル三十センチで体格がいい強面の生徒指導の先生のそばで、『強制されていないかどうか』を確認するために、『嘘発見魔道具(尋問用)』で確認するらしい。
ちなみにこの先生は筋肉はすごいが泳げないので、生徒の間では『ムキムキの実の能力者』の二つ名で通っている。敬称なのか蔑称なのかいまいちよくわからない二つ名である。
なお、この生徒指導の先生は本部の役員と言っても過言ではなく、権限は通常の『生徒指導の先生』程度のものしかないのだが、いざというときにはしっかりと権限があり、本部の役員故に地位も権力も金もあるので懐柔はほぼ不可能。実は本部の役員がもう一人部屋で隠れていて、色仕掛けで落とされた場合は奥さんに遠慮なく報告することが通達されているので色仕掛けも通用しない。
ちなみに、地位も権力も金もあるといったが、実力に関しては、二メートル三十センチでムキムキというところで判断していただきたい。ちなみに来夏は腕相撲で瞬殺したそうだ。
秀星はこの話を来夏から聞いたときは『徹底しすぎだろ。あと来夏の腕力は意味わからん』と思ったものだが、それほど苛烈なのだ。
実際、研究会としてのレベルは変わらないのに、位置取りで評価が全く違う。ということがよくあったようだ。
さらに言えば、この『票を集めるシステム』が用いられたことで、優勝するような研究会のプレゼンテーションのレベルが上がった。
もっとも、本番よりも前に魅力を伝えて、そして本番で本格的に魅了する。というその考え方は将来役に立つものだ。
というより、研究会としてのレベルが高くとも、伝えるのが下手だと魅力を感じない。
言いかえるなら『魅力が伝わりきらない』ので、見ている方は首を傾げる。
プレゼンテーション力を鍛えるために加わったシステムだが、結果的に優れた研究チームが排出されている。
研究会としてではなく、プレゼンテーション力が評価されて、個人がスカウトされるケースもあるらしい。
秀星は『まるで政治だな』と言おうとしたのだが、それを察した来夏に目線で止められたので何も言わないことにした。
秀星は『例えばどんなグループが票を集めてるんだ?』と来夏に聞いたところ、『もとから技術が優れた研究チームは何も言わなくてもみんな気になってるから場所が悪くても人が集まる』ので提出する必要はなく、『まあ……煩悩を刺激するようなグループだな』とのこと。
秀星は『じゃあ、俺と来夏以外の剣の精鋭が全員集まって『メイド喫茶やります』って言ったら票が集まるってことだな』というと、来夏は『当たり前だ』と即答した。
こういうときに限って世の中はわかりやすくできていると感じるのは人の性というものだろう。
ガチで王女のアレシアがメイドをやるとか、一部の者にとっては背徳感があって乗り気のはずだ。
何人か宙を舞うかもしれない。
そんなわけで、様々なグループが出し物をするのだ。
ちなみに、最高会議の五人が今年は全員揃っているので楽しむ予定らしい。
秀星は、『多分ドエラいことになるんだろうな』とだけ考えていた。
実際に何が起こるのか、ということに関しては、流石の秀星も予測不可能である。




