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第二百六十九話

 秀星が一番大きな戦力を倒してからの流れは速かった。

 最大戦力をもってしても、優先事項として最高位である『秀星の討伐』を成し遂げることができなかったのだ。

 さらに言えば、今回参加している中でも下っ端に位置する人間は、神器持ちという存在が、文字通りの一騎当千であることを知っている。

 というより、一騎当千という例えよりも上であることが脳裏に焼き付いている。

 自分たちが向かっても勝てない。ならば、勝てるやつに任せる。というのが人間心理というものだ。

 上位神の神器を二つ持った者が五人。そして、最高神の神器を持った切り札。

 ここまでそろえば、もともと勝ち馬だと考えるのは当然。


 しかし、その作戦は壊滅した。

 長い間暴れたことで、他からも警察組織の応援が来た。

 ただし前提として、最高会議側は殺戮者というイメージを作るわけにはいかないので、降伏勧告を行い、全員が手錠をはめられ、そして連行されることとなる。


 レベルが異なるものの、荒事には慣れているといっていい。

 校舎内に潜入することができた者たちもいたが、才能にあふれた者たちが集められているジュピター・スクールの中で、問題があった場合に取り締まること求められる生徒会や風紀委員会がもっている武力は大きく、大通りから入ってくるような主力武装を持っていないものがほとんどで、とらえることは簡単である。

 あまり強いものを持っていると、ジュピター・スクールの敷地に存在するセンサーに引っかかるので抑える必要があったことは間違いない。


 あえて言うことがあるとすれば、負けるだろうとは思っていたとしても、ここまでフルボッコにされると、装備を作った晶子としては少し納得がいかないということくらいだが、頤綴から余計なことを言わないようにと命令されたので黙っている。


 秀星は彼らにとっての切り札をどんなふうに片づけたのかと聞かれたが、それに関しては『再生能力がある神器を持っていたので存在レベルで消し飛ばした』と説明。

 普通なら意味不明と思われるが、秀星なら可能だと思う人間が多いのだから、自重がないことは時に必要なのだと思い直したものである。


 今回の襲撃における総論としては、『防衛側の戦力が過剰すぎた』ということで決まった。

 そして、これからのFTRに関しては要観察。

 それに加えて、襲撃者たちから没収した装備についての研究を行うということになった。


 しかし、この装備というものが曲者だった。

 そもそも、分解した瞬間、あの緑色のチューブの中の液体が機能しなくなるのだ。

 『悪魔の瞳(ラプラス・アイズ)』を持つ諸星来夏と、魔法社会最高質の技術を持っている糸瀬竜一が出した結論としては、

 『そもそも機能が薄い素材を無理やり動かしているので、外部の影響がほとんど入らない設計にもともとなっている。それを崩せば、機能するための最低限の機能すらなくなる』となる。


 頭を悩ませていたが、これに関しては、今すぐ結論を出すものではないと判断することとなった。


 ★


「なんていうか……特に大きなことはなく終わってよかったね!」


 剣の精鋭で集まったとき、雫はそういった。

 とはいえ、秀星や来夏のような体力バカは少ないので、ゆっくり休憩を取ったほうがいいことは明白である。

 話を続けたいと思っても、休みたいという意見を尊重すること、と来夏が最初に行って始まった会話である。

 それを聞いて風香と美咲がぐっすりと部屋で寝ている。

 風香は『儀式』の、美咲は『融合』の体力消耗のためである。

 ポチのほうはそこまで体力が消耗していないようだが、美咲のほうは早かった。


 とはいえ、ゆっくり休めば元通りになることは間違いないので、放置しておけば問題ない。

 秀星は、来夏が抱いている沙耶を見て疑問に思った。


「……そういえば、俺たちが戦ってるとき、沙耶はどこにいたんだ?」

「ん?そんなもん。前線に出てなかった親父に預けてたに決まってるだろ」


 沙耶から見ておじいちゃんが預かっていたということか。

 そして、戦いが終わると同時に来夏に戻ってきたと。


「にしても、親父の緩んだ顔は初めて見たぜ。それでも避難誘導の指示はしっかり飛ばしてたんだからすげえよな」


 クククと笑う来夏。

 体から変なガスが抜けると同時にゴリラ化した来夏だが、やはり親である諸星聡明はしっかり見守っていたわけだ。

 そして、孫はかわいいのだろう。

 さらに言えば、長年あっていないからと言って、来夏の方が遠慮しないのだ。


「まあ、そういうものでしょうね」

「しかも、来夏が受け取るまではぐっすり寝ていたからな」

「あんなにスヤスヤ寝ていた沙耶ちゃんを見たのはじめてよ」


 アレシア、羽計、優奈は、来夏が沙耶を受け取ったところを見ていたようだ。


「まあ、受け取った瞬間に起きたのだがな」

「それは……何と言いますか……」


 羽計の補足にエイミーはコメントに困った。


「今に至るまでパッチリ目が覚めてるもんね」

「だな。床に下ろしたらどこまでも行くぜ」


 試すのはやめておこう。


「……ちなみに聞いておくが、どれくらい遠くまで行くんだ?」

「一日で東京から青森までいける」


 全員が吹き出した。


「……マジか」

「ああ。直前に青森県のりんごの紹介してたし、それに興味があったんじゃね?」

「だからっていけるか?まだ一歳来てないよな。ていうかまだ歩けないよな」

「まだゼロ歳だがすでに走れるぜ。な、沙耶」

「……?」


 きょとんとしている沙耶。

 そもそも興味がないようだ。


「……なんか、すごいね。はっきり言って私たちより体力あるんじゃない?」

「あるでしょうね。というより、りんごに興味があるからと青森に行けるのもどうかと思いますが、そもそも木の上にあるりんごをどうやってとるのですか?品種によりますがかなり高いところにある場合もありますが……」

「頭突きしてた。結構落ちてたぞ。熟したやつだけ」


 天才である。


「あと、避難指示を出してた親父が言うには、モニター越しでも隠れてるやつがわかってたみたいだぜ。たぶんオレの『悪魔の瞳(ラプラス・アイズ)』が無意識かつ限定的だが使えるんだろうな」


 はっきり言って言葉通り頭のおかしい赤ちゃんである。


「すごいね沙耶ちゃん」


 雫がそういうと、雫の方を向く沙耶。


「あう~」

「ん?これは何を言ってるの?」

「おなかがすいたみたいだな」

「どういうこと!?」


 気まぐれすぎるのにもほどがある。

 思えば、来夏が沙耶の近くにいることができない場合は大体、旦那の和也がそばにいるわけだ。

 ぶっちゃけ赤ちゃんの言語能力はほぼないのだから、来夏のように直接視れるのならともかく、ここまで脈絡がないと大変である。


「てことは、またあれか」


 沙耶の掃除機食いを思い出した。


「で、沙耶、何が食べたいんだ?」

「う~」

「え、満漢全席?」


 食えるか!


「う~」

「あ、ラーメンか。びっくりしたぜ」


 普通。

 ……ふつう?


「あ~」

「ん?とんこつラーメン五杯だな。よし、食いに行くか。というわけで、オレはちょっと退散するぜ」


 そういうと、来夏は沙耶を抱いたまま出て行った。

 そしてそんな二人と、全員が変なものを見るような顔で見るのだった。


「ちょっと話題変更したほうがいいね」

「そうだな。そういえば、まだ合同授業は一週間分残ってるが、何があったかな」

「この時期だと文化祭だな」


 雫が目をそらし始めたので秀星は同意。

 羽計が言い足したのは文化祭である。


「文化祭があるのですか?」

「ありますね。それぞれの研究会が、夏休みの間に調べたものを発表する場でもあります」

「かなり施設であふれてるから、私たちでも勉強になる場合もあるわよ」


 エイミーも気になったようだ。

 アレシアが簡単に説明して、優奈が補足というより感想を言った。


「文化祭か……毎年狙われたりするのか?」

「さすがに文化祭だと玉石混合で狙ってもあまり意味はないわよ。もっと大きな発表会が後に控えてるから、そっちが狙われる時があるわ」

「なるほど」


 そのころにはこの学校にはいない可能性が高いが。


「文化祭か。俺らのクラスでも何かやるかもな」

「可能性はあるね。乗り気な生徒って多いし」


 さて、沖野宮高校の生徒側からもそういった出し物はあるかもしれない。

 そうなれば、全面的に参加するかどうかはともかく、それ相応に手伝うくらいにする。

 あくまでも秀星の予定としては、そんな感じだった。

 そんな感じのはずだった。

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