第二百六十六話
大通りではなく、普通に建物の間を抜けて侵入してきた襲撃者が実際にいたわけだが、そもそもそれを学校側が誰も考えていないというわけではない。
ただし、襲撃者たちが身に付けている『ブランク・アームズ』の性能を突破できるかどうかとなると、かなり人数が限られるのだ。
明らかに装備ごとぶっ壊すことができそうな奴がいろいろいるのだが、それは頭のおかしい一部のもの達だけである。
脱線し始めたので戻すが、簡単に言えば『遊撃』の人材がほしいのだ。
現在、会堂蓮と諸星聡明が人を集めて配置しているが、配置できる人数が思ったより少なく、悪戦苦闘と言っていい。
もちろん、一定の強さを持つものに取っては対応可能なわけだ。
「もうこのあたりにはあまりいないみたいです」
「でも、まだ隠れている可能性だってあるわよ」
「さすがに相手の大将がいなくなれば撤退すると思いますが……」
「むう……でも、確かにもうあまりいないみたいですねぇ」
「でも遠くからすごい音が何回も聞こえる」
ポチに乗った美咲、優奈、アレシア、美奈、天理の五人と一匹である。
「上空では良樹君が頑張っているみたいですね。もうそろそろ報告が来ると思いますが……」
アレシアが笑顔でそういった。
良樹はこの五人……主にアレシアに拉致されて一緒に行動しているといっても過言ではない。
もともと良樹は『ブランク・アームズ』装着者をどうにか撃退できるくらいの実力を持っているし、魔法に関してはできる限り多く取得しているので、ある程度条件が分かれば飛行魔法も使える。
まあ、それを息をするのと同レベルでするやつがちらほらいるので何の自慢にもならないのが悲しいところだが、神器持ちでもなければ、アトムのような群を抜いた天才と言うわけでもないし、別に基樹のように魂が異常と言うわけではないので、別にそれでも問題はないのだ。ないということにしておかないとあとあと面倒なことになるのだが。
「あ、降りてきたです」
美咲が指差した先には、理解できないものを見て疲れたような表情の良樹。
「……一体何があったの?」
「……ゴリラが暴れていた」
「来夏か……しかし、この爆発音は異常だろう」
「どんなものを相手にしているのかよくわからないですね~」
思わず優奈が聞いたが、その返答に対して剣の精鋭とその周辺メンバーには分かりやすい説明をした良樹。天理は誰がやったのかはわかったが、一体何を相手にしているのかが気になった。美奈も困惑している。
「それならこのあたりはあまりいても意味がないですね。移動したほうがいい思うです」
「そうね。来夏は『悪魔の瞳』があるから、建物の後ろに隠れたやつだって発見できるし」
「二番通りに近い場所を見張りましょう」
「早く移動したほうがいいかもしれませんね。来夏さんカテゴリのすごい人って他にいませんから」
「……いや、どうやら出番が来たようだ」
天理がそういったとき、アレシアたちがいる路地に大型の戦車がぶち破って来た。
「何、どういうことだ!?」
良樹だけ慌てている。
なお、他の五人に関しては悪い意味で場慣れしているので問題なかった。
「別の大通りに入り込もうとしてるみたいです」
「まあ、戦車が来ても対応できそうな人ばっかりだからあんまり意味ないと思うけど」
「大通りからではない場所から校舎に戦車で突っ込む、という作戦の可能性もありますね」
「むしろその可能性が高いですね!」
「……戦車か。確かひっくり返せばいいんだったな」
なんてことはないと思っている五人である。
というより、秀星も基樹も放出可能な出力が頭おかしいので、この程度で驚いていると頭が持たないのだ。
悪い言い方をすると感覚が麻痺している。
(なんでこいつらこんなに余裕なんだ?戦車だぞ戦車)
正直信じられない良樹。
とにかく、人がちょっとスイッチを押すだけで絶大な火力を発揮するのだ。
しかも魔法社会の戦車となれば、装甲がまず強化されている可能性が十分にある。
はっきり言って、五人や六人でどうにかする様な敵ではない。
「まあ、やるしかないか」
良樹は上位魔力を扱えるように訓練してきた。
戦えば何も戦力にならないということはない。
「むう、美咲の火力だと足りなさそうです。これを使うです!」
美咲がポケットから一枚のカードを取り出した。
「ポチ!いくですよ!」
その宣言にポチは嫌そうな顔をしているが、すぐに諦めたような表情になった。
美咲がカードに魔力を流し込む。
カードが光り輝いて、美咲とポチを包んだ。
そして……。
「……よし、がんばるですにゃ!」
触ると気持ちよさそうな猫耳。
モッフモフの尻尾。
完全にネコ化していた。
「!?」
これには良樹だけではなくみんな愕然。
戦車の中からもそんな雰囲気を感じる。
だが、美奈の何かのセンサーに引っかかったようで、優しく抱きしめた。
「可愛いですね〜。あ、この耳って本物みたいですね」
「くすぐったいですにゃ〜」
耳はピコピコ。尻尾はフリフリ。
とても気持ち良さそうにしている。
そして、天理は自分のそばでフリフリしている尻尾をギュウウウっと掴んだ。
「ふぎゃああああ!」
突然聞いたこともないような叫び声を出す美咲。
しっかり感覚があるようだ。
驚いた天理はパッと放した。
「む、むうううう!」
何かが抑えられないのか奇声を発する美咲。
「やはりというか、尻尾は弱点なのか」
「す、すっごい変な感じがするですにゃ」
美咲には悪いが可愛いと思ってしまった女性陣。
多分これから先も握られるであろうことがわかる。
というより雫が放置するとは思えない。
「……あれ、そういえば戦車は?」
優奈が今更ながら思い出した。
「この空気に耐えられなくなった良樹さんが戦っていますよ」
アレシアが指差す先では良樹が魔法をブッパしていた。
何かを悟ったような瞳をして。
「よし、美咲もたたかうですにゃ!」
美咲はそういうと同時に、爆発的な跳躍力で接近すると、槍でついた。
すると、戦車の装甲がバキッという音を立てて壊れる。
完全に貫通していた。
「美咲にばっかり任せておけないわね」
優奈が籠手を構えて急接近。
魔力を纏わせやすい材質で頑丈なのか、普通に殴った装甲がヘコんでいる。
「さてと……」
戦車の主砲が動いている。
アレシアは超能力で間合いを伸ばして、接続部分に突きを打ち込んだ。
接続部分が壊れたようで、主砲の回転が止まる。
「私も行くよ!」
美奈が真っ白の剣を構えて突撃。
それと同時に、空中に同じ白い剣が四本出現して、合計五本になった。
それを振り下ろすと、またまた装甲が割れる。
「私も行くとしよう」
黄金の剣を構えた天理がゆっくり近づいて、光り輝くそれを薙ぎ払った。
またまた砕け散っていく装甲。
「…………」
そしてそれを見る良樹の顔だが、なんというか、地上波での放送が無理そうなくらい歪んでいる。
まああれだ。何を言えばいいのかわからなくなって、全部顔に出ているのである。
……とはいえ、男としては頑張る他ない。魔法社会は、女も強いのだ。
本当に、強いのだ。




