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第二百六十五話

「いろいろと面倒なことになってきたが、荒事に慣れてるみたいだなぁ。嫌な経験値だ」


 八番通りから入ってくる襲撃者たち。

 そんじょそこらの雑魚に関してはすべて戦闘不能にした秀星は、プレシャスを地面に突き立てると、そんなことを呟いた。


「フン!余裕ぶっていられるのも今のうちだぞ。朝森秀星!」


 特別な装備。といっても、他の襲撃者がつけているものとはほとんど同じで若干強化パーツを付けたような装甲を付けているやつが秀星に向かって叫んでいる。

 その手に持っているのが神器であることを考えると、『最低限の目標である秀星を倒すために来たメンバー』であることがわかる。

 そんな装備の者が全部で五人いる。


「神器持ちか」

「そうだ。俺たちは元評議会のマスターランクチーム『星明りの大地スターライト・グラウンド』の幹部五人衆。そして、全員が上位神が作った神器を持っている。お前に勝ち目はない!」


 『星明りの大地スターライト・グラウンド』という名前を聞いて、秀星は記憶の中から該当するものを引っ張り出した。

 確か、評議会がつぶれた後、即座に魔竜を送り込んでくると共にサブリーダーが出てきて、エインズワース王国では、神器の効果すら無効にするリーダーが出てきたはずだ。


(……ん?サブリーダーと元勇者の名前がどっちも『天理(てんり)』だな。偶然か?)


 そんなことを考えた秀星だったが、一応それは頭から切り離すことにした。

 ここでは何を言ったとしても仕方がない。


「……ていうか、リーダーとサブリーダーがいなくなったから、もう後がないだけだろ」

「倒したのはお前だろうが!」


 おっしゃるとおりである。


「全員が上位神の神器持ちねぇ……」

「しかも、全員が二器持ちだ」


 秀星が思ったのは、『すごい』というより『サブリーダーかわいそう』である。

 サブリーダーは『魔剣』を持っていたが、『神器』を持っていなかった。

 確かに出力そのものはあったし、秀星の前にいる五人よりもルックスがいいので大衆受けはするだろう。

 それもそれでどうなのかと思ったが、世の中はそんなものだと思うことにした。


「そして今は、五人全員が二つの神器に加えて、この装備によってブーストされている。朝森秀星。貴様が複数の神器を持っていることは分かっている。だが、この人数には勝てない!」


 そう言い始める『星明りの大地』メンバーだが、秀星はつぶやく。


「殺すつもりでかかってくるんなら、口の前に手を出せよ三下」

「ふ、ふざけるな!」


 五人の装備だが、あくまでも見えている神器から判断すれば『片手剣の二刀流』『両手槍と護符』『ライフルとハンドガン』『両手用の大型盾』『短剣と特殊ブーツ』といった感じだ。

 前衛一人、アタッカー二人、狙撃手一人、斥候一人といったところだろう。

 前衛一人という、そこを突破されたらどうするのかと思う部分があるにはあるが、別に悪い編成ではない。

 それに、大型盾を持っている男のもう一つの神器がわからないので、そのもう一つがあれば十分という可能性がある。


「……」


 秀星は地面にさしていたプレシャスを抜いて、左手にマシニクルを出現させて、タブレットを左手の甲あたりに浮遊させる。

 そして、デコヒーレンスの漆黒外套をブレザーの上から羽織った。


「すべて神器のようだな」

「だが、下位神の神器だ。五人でかかれば問題はない!」


 盾を持った男を先頭に、アタッカー二人も突っ込んでくる。

 そうして近づいてくるまでに狙撃手が撃ってくるが、プレシャスで叩き斬った。

 アタッカーの二本の片手剣と槍。

 二本の片手剣はプレシャスで抑え込んで、槍はマシニクルからブレードを出して弾く。


 そして、秀星の頭上に魔法陣が出現。

 アタッカー二人が後ろに跳んで、盾を持ったやつが前に出てきた。

 魔方陣からは白い炎の玉が放出されたが、盾によってふさがれる。


「ククク。なかなか身のこなしがいいじゃないか。だが、いつまで持つかな?」


 秀星はそのセリフは聞かずに、マシニクルを後ろに向かって撃ちまくった。

 斥候がいたが、舌打ちしたようにまた気配がどこかに消えた。

 まあどこにいるかは雰囲気のオンオフでわかっているで無問題だが。


「チッ。うぜえ!さっさと死ね!」


 アタッカー二人が飛び出てきて、後ろから斥候がまた突撃してくる。

 狙撃手が引き金を引いてきたので、外套の袖でガード。

 二刀流のやつをプレシャスを振り上げて対応して、槍持ちは魔法で牽制し、斥候はマシニクルを撃って対応。

 上位神の神器持ちというだけあって全員が異常に速いので、余裕はあるがあまり出し惜しみをしていられないかもしれない。


「ふーむ……」


 今度は秀星が高速で移動することにした。

 斥候はもちろん、二人のアタッカーもギリギリついてくるし、狙撃手の銃口を考えるとついてこられるようだ。盾持ちはボーっとしている。

 斬ったり弾いたりするが、なかなか思うようにならない。


「どうやら、力の差がわからないようだな。それでは、あるかもしれない可能性すらつかめんよ」

「ククク、上には上がいるということだ。多少強い程度でいい気になるなど言語道断!」

「ただ使っているだけでは、使いこなせているものに勝つことなど不可能」

「多勢に無勢。常に、少数に勝利はない!」

「常に、考えて努力したものが勝ち続けることができるのだ。世界を舐めるんじゃない!」


 有利になっていると思ったのか、そんなことを言い始める『星明りの大地』メンバー。

 秀星は彼らから離れて地面に着地すると、何かを思い出すかのようにつぶやき始める。


「格言や名言っていうのは、人を動かす原動力になるもんだな」


 そのつぶやきを聞いた五人は、さらに表情をいいものにする。


「ほう、ならば貴様は、何か信じる名言か何かがあるのとでも?」

「名言とかそういうものじゃないが……」


 秀星は溜息を吐いた後、彼らを見ていった。


「『名言や格言を唱える者が、それが世界の真理だということを理解しているとは限らない』」


 秀星のその言葉を聞いた五人は、わずかに表情をゆがめる。


「どういうことだ?」

「名言だとか格言だとか、そういったものは誰かが達成した成功の元に生まれるものだ。だから、何を信じたとしても大した差はない。だが……『視野が狭い』というだけで、潰れていくやつは後を絶たない」


 秀星は五人に聞いた。


「お前たちは、自分が行ったことが、世界の真理であることを本当に理解しているのかな?」


『力の差がわからなければ、勝てるものも勝てない』

『上には上がいて、多少強い程度ではすぐにつぶれる』

『何かを使う場合、構造のすべてを網羅し、適切な機能を選ぶ必要がある』

『少数では勝てない。数が必要』

『考えられた努力の末に、正しい成長がある』


 それを認識した上で、さらに、問う。


「お前たちは、それを信じ続けるために必要な『視野の広さ』を持っているのかな?」


 物理的、学力的、情報的、すべての話だ。

 とにかく、見ておかなければならないものを見ずに進む者は、単純に破滅へと近づいていく。


「俺は、そうは見えないけどな」

「ふざけるな!」


 叫ぶ五人。

 だが、秀星は溜息を吐くだけ。


「お前たちの答えは分かった。セフィア。戦闘型を最大ランクで五人出せ」

「畏まりました」


 【究極メイド『セフィア』の主人印】は、秀星の脳内に核が存在する。

 そのため、命令された言葉には含まれていない『言外』の意味もすべて理解する。


 秀星の隣にセフィアの最高端末が出現し、二人の前には、それぞれ別の装備を持ったメイドが出現する。

 体格はすべて異なり、若いか幼いかのどちらかだ。

 最高端末は銀髪碧眼だが、他の個体にそのような特徴があるわけではない。

 秀星の好みの問題で胸は大きく肌は白いが、それを除けば特徴はばらばらだ。


 そして、その装備は狙ったものだ。

 片手剣の二刀流。両手槍。大型の盾、ライフルとハンドガン。ダガーと特殊ブーツ。

 五人と同じだ。


「な、なんだこいつらは」

「俺に従順なメイドたちだ」


 秀星は簡潔に言った。


「お前たち。こいつらを適当に片づけておけ。俺は奥にいる襲撃を考えたやつの切り札に会いに行ってくる」

「「「「「畏まりました。秀星様」」」」」


 いつの間にか、というべきだろう。

 この話を始めた時から、秀星は学校の敷地から見れば、五人の位置よりも奥にいた。

 最初から、後のことをメイドたちに任せるつもりだったかのように。


「じゃあ、ちょっと言ってくる」


 そういって背を向ける。

 そして最後に、『星明りの大地』の五人のほうを向いて言った。


「俺が持ってる神器は確かに、下位神の神器だ。まあこれを機に、『相乗効果』というものを学ぶといい。行くぞ。『セフィア』」

「はい」


 主人の脳内に核があるセフィアは、主人の命令を間違えない。

 五人も、『セフィア』といったのが最高端末だけを指すことを理解して、武器を構えていた。


 秀星は始まる戦闘音に耳を傾けることすらなく、奥に向かって歩いて行った。

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